第15話「上がれポイント、削れる体力! 善行ラッシュでフラフラです!」

「ふっ……ここまできたら、やるしかない!」


朝の公園で仁王立ちする沙織の姿に、近所の犬が遠巻きに吠えている。


《現在の数値:39/100》


スマホ画面に映るその数値は、見るたび心拍が早まる。これがゼロになったら何が起きるのか、まだ分からない。ただ「不幸イベント」が発動する――という謎の警告が表示された以上、行動あるのみ。


「とにかく善行を積めば上がる。つまり、私が“世界にいいこと”すればいいのよね!」



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「おばあちゃん、荷物持ちますよ!」


「え、いいの? あらまあ助かるわぁ」



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「落とし物ですよー! 財布! はいこれ! 走らないでー!」



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「すみません! 自販機に小銭詰まってたんで、これ本部に届けてきましたー!」



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午前中だけで善行11件。


気づけば、沙織の顔からは脂汗、足はガクガク。


(やばい、心なしか視界がちょっとチカチカしてきた……でもまだいける……!)


スマホを取り出すと、画面がキラリと光った。


《現在の数値:61/100》


「っしゃああああ! 上がった! やればできるじゃん私!」


思わずガッツポーズを取った瞬間、ふらりと視界が傾ぐ。


「やば、立ちくらみ……っていうか、あれ? なんか……頭に音が響く……?」


ぐらり。


だが、倒れはしない。まだ。


(体力ゲージとかも見せてくれよ……っていうかこれ、あと一善したら死ぬのでは……?)



---


一方その頃、駿はマネージャーと移動中の車の中。


「……あの子、気になるんです」


「“善行ガール”? あんた本気で探す気?」


「はい。あんなに話題になってるのに、顔も名前も出てこない。だから……気になるんですよ。運命っぽいっていうか」


「ふぅん、珍しくロマンチストなこと言うじゃん」


「……自分でもそう思います」


そして、彼らの車は、沙織が今まさに意識を半分飛ばしながら通過しようとしている横断歩道の近くを通る――


しかしまだ、すれ違う運命は発動しない。



---


昼過ぎ、沙織は最後の力を振り絞り、駅前のゴミ拾いを開始。


「あーもー! 誰だよマックのストローだけ道に落としてんの! セットで持ち帰れよー!」


その怒鳴り声に子どもがビクッとする。


「あっ、ごめんなさい、別にあなたのことじゃなくて!」


混乱のままさらに善行を続ける。



---


夕方。善行計27件。


《現在の数値:73/100》


「よし……このくらいあれば、ひとまず“発動”は回避できたでしょ……」


帰り道、ふらつく足取りで公園のベンチに沈み込む沙織。


(はー……水分も塩分も枯渇……)


するとスマホが震え、画面が光る。


> 【一時的に危機回避しました】

※ただし身体状態の限界に注意。




「知ってるわー……めっちゃしんどいもん……」


空を見上げたその瞬間。


「駿……に……会いたかった……」


ぽそりとこぼれた言葉は、誰にも聞かれることはなかった。

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