第2話*エンドに向かうぞ!
「ほおほお、この国はスイーツが有名なんだ…」
いつものようにハードスケジュールを終えた私はベッドのうえでガイドブックを読みながら第二の人生への計画を立てていた。
「えっ、『デロリアン』って巡回中なの!?
この劇団の舞台を1回でもいいから見たいと思ってたんだよね!」
行ってみたい国や食べてみたい食べ物に色つきのペンで丸をつけながらガイドブックを読み進めた。
語学は日頃の妃教育のおかげで完璧だし、体力もダンスレッスンのおかげでバッチグーである。
「ウフフ、旅に出たらどんな出会いが待っているのかな?
イケメンはいるかな、いるよね!?」
ガイドブックを胸に抱きしめた私は追放後の人生に思いを馳せた。
物語の通りにエリーゼが現れて、アーロンとの関係が深くなったのを見計らった私は両親に話をすることにした。
「お父様、お母様、お話があります」
夕食の席で話しかけた私を両親は見た。
「何だ?」
「どうしたの?」
物語のところだと、エリーゼを追い出して欲しいと両親にお願いをするところだけど中の人が私の今は違う。
「ーー実は…」
私はゆっくりと口を開くと、
「アーロン様と婚約破棄をしたいと思っているんです」
と、言った。
「えっ!?」
「そ、そんな、どうしてよ!?」
突然の宣言に両親はひどく驚いたようだった。
近くにいて事を見守っていた使用人たちも何を言い出したんだと言う顔で私を見ている。
「アーロン様は、エリーゼ様とおつきあいをされているみたいなんです」
私は言った。
「え、エリーゼって…あの田舎娘のことか!?」
「はい」
そう聞いてきた父親に私は首を縦に振ってうなずいた。
「わかった、あの田舎娘を追い出して…」
「やめてください、お父様!」
過激な行動をしようとする父親を私は両手でテーブルをダンと大きくたたいて止めた。
「私は、そんなことをしてまでアーロン様と一緒にいたいと思っていません!」
大きな声を出して叫ぶように言った娘の顔を両親は見つめた。
「愛する者同士が一緒にいることは当然のことだと、お父様はいつもおっしゃられていたではありませんか!
私はアーロン様が本当に愛している人と一緒にいて欲しいと思っているから婚約破棄を申し出たんです!
私のせいで、アーロン様にはつらい思いをして欲しくないんです…!」
ううっ…と、私は大げさに泣き真似をした。
「何と…」
「スザンナ様がそんなことをお考えになっているとは…」
使用人たちは感心をしているようだった。
両親はお互いの顔を見あわせると、
「そうね、愛する者同士を引き裂くなんて…それは、いけないことよね」
と、母親は口を開いた。
「スザンナ、お母様は他人を思いやる心優しい娘に育ってくれたことをとても誇りに思います」
「お母様…!」
「そうだな、その方がいいだろうな…。
スザンナ、勇気を出して言ってくれてありがとう。
君の意見を受け入れるよ」
「お父様…!」
私は両親に向かって深く頭を下げると、
「ありがとうございます!」
と、お礼を言った。
この光景に使用人たちも目を潤ませているようだった。
ーーよしよしよし、両親を説得してしまったら後はこっちのもんだ。
スザンナが悪役令嬢になった要因の1割が甘やかされて育ったから…だと思うんだけど、両親は基本的に1人娘に甘いのでいろいろと都合がいいと思ったので利用させてもらうことにした。
婚約破棄は私の方からアーロンに伝えること、周りには決して口外しないようにと使用員たちに口止めをした。
どこかでバレてしまったら面倒なこと、もしバレてしまったら彼ら…特にエリーゼに危害をくわえてくる人間がいるかも知れないから口外をしないで欲しいと彼らにお願いした。
これは表向きの理由で、本当は追放エンドまでの準備が周りにバレないようにするためである。
「さて、これで心置きなく計画を進めることができるわ…」
私はクックックッ…と、悪人のように笑った。
追放エンドまで、後2年である。
*
両親と一緒に使用人たちの紹介状を書いたり、就職先を一緒に探したりしながら忙しく日々を過ごした。
「スザンナ、国を出たらどうするつもりなんだ?」
父親が聞いてきた。
彼らの生活の邪魔になりたくないから国を出たいと言った私に、両親は自分たちは屋敷を売り払って違うところで新生活を始めることにしたそうだ。
「私は旅をしたいと思っています」
そう言った私に、
「旅?
それはとてもいいことですね」
と、母親は言った。
「行きたいところに行って、食べたいものを食べて、いろいろな人たちと出会いたいと思っています。
もしかしたら、アーロン様よりも素敵な殿方が見つかるかも知れません」
「それはそれは…」
父親は何とも複雑そうな顔をしていた。
「もし一緒にいたいと思う殿方に出会いましたら、真っ先にお父様とお母様に紹介します!」
「フフフッ、楽しみにしているわ」
「そんな日がきて欲しいような、きて欲しくないような…」
楽しそうな母親とは反対に、父親は困ったように人差し指で頬をかいた。
田舎で暮らしたいと言う両親のためにいくつか場所を見て回り、気に入ったその場所に家を買った。
屋敷の中にあるいらないものを全て売って、いくらかの大金が手に入った。
その大金はいくつかの施設に匿名で寄付したり、両親に今まで育ててくれたお礼や使用人に退職金としていくらかあげたが、それでも大金は残ったので後は私の旅の資金として使わせてもらうことにした。
私がアーロンから追放を言い渡される半年前に両親は田舎へと引っ越して、3ヶ月前には使用人たちも屋敷を出て行った。
両親は田舎に住んでいる人たちに畑仕事を教えてもらったり、植物を育てたり、魚釣りをしたりと、自由気ままな田舎暮らしを楽しんでいる…と、届いた手紙を見ながら私はフフッと笑ったのだった。
「さあ、次は私の番だ」
明日は物語の最大イベントである婚約破棄と国外追放の日だ。
この最大イベントが終われば、妃教育もお茶会も上辺だけの人間関係ともおさらばだ!
「行きたいところに行って、美しい景色をたくさん見て、美味しいものをいっぱい食べて、上辺だけじゃなくて心の底から結ばれている友情に素敵な恋と私は追放後の人生を謳歌するんだ!
このバラ色の人生を思いっきり楽しんでやるんだ!」
まるで明日の遠足が楽しみで仕方がない小学生の気分だ。
明日の最大イベントに備えて、今日は早く寝ることにしょうと思い立った私はベッドに入ったのだった。
*
いつもよりも早く目を覚ましたのは久しぶりだ。
まずは寝間着を脱ぐとそれを畳んでトランクの中に入れた。
トランクの中を確認して忘れ物がないかどうかの確認をすると、ドレスに着替えて身支度を済ませた。
「ーーよし、行くぞ!」
私は最大イベントに向かうために屋敷の外を出たのだった。
城に到着して使用人に声をかけると、アーロンは部屋で待っているとのことだった。
もしかしなくてもアーロンが何かを言ったんだろうな。
使用人たちの私を見る目があきらかに冷たいうえに、用があるなら直接部屋へ行けとまで言っている。
ケッと心の中で毒を吐くと、私はアーロンの部屋へと足を向かわせた。
「見てよ、ほら」
「堂々としているわね、私だったら恥ずかしくてできないわ」
私とすれ違うたびに使用人たちは嫌なものを見たと言うように目をそらしたり、ヒソヒソと小さな声で何かを言いあっている。
一応は婚約者なんですけどね…って、別にいいか。
もうこの人たちとも一生関わることなんてないんだし、この最大イベントが終わったら公爵令嬢や婚約者と言う肩書きすらもなくなるんだから気にする必要なんてないか。
それよりも目的の場所へと歩いて向かいながら、私は胸の中がワクワクしているのを感じていた。
さあ、いよいよ最大イベントの始まりだ!
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