ぷぴ21 娘と襲撃
<この通りだ。【精霊の長】は【精霊界】で談義されるトップ中のトップの【精霊】を示すと思われがちだが、【精霊】以外でなければ中立を保てないのだ>
『だから、現【精霊の長】様はエルフご出身なのですね』
赤ちゃん語から普通に話していることに突っ込みがない。さすがアモン家は不思議が少しあっても動じない。
『私は特段なことがあって選出されたのかと思っておりました』
あ……。私、選出? 聞き覚えのある言葉だな。でもロゼ島に必要なこととは思えない。
「シルちゃん、どんな【精霊】さんなの? 本日のメイン、ホールケーキを切り分けましょうよ。【精霊】さんは食べられるのかな。二つ焼いたから余裕なんだから」
アモンの台所は大人二人で仲良く使う。特別なとき以外は私は呼ばれない。ホールケーキは一歳のお誕生日に特別だとまーまが話していた。
「シルちゃんのピンクの祝福入りなんだぞ」
嬉しいときは気持ちをそのままに表現することをここ一年で心に沁みいた。赤ちゃんだから、小手先の感謝なんかないんだ。ありがとう、簡素で実直な言葉があらゆる術より強い。
『ありがとうございます。私のは仕上げの一振り程度ですよ。まーまのケーキはロゼ島で一番美味しいです。いえ、ぱーぱと一緒に愛情を込めてくださって私の一歳のお誕生日に心を尽くしてくださって嬉しいです。早くいただきたいのですが、【精霊】さんがお越しなんですね』
「なら、皆でいただこうよ。シルちゃん」
姿が分からないのなら仕方がない。こちらからご紹介しよう。
『その【精霊】のトップ中のトップ、【長】様です。私を【精霊の長娘】にしたいとの申し出で』
「……!」
「……?」
お口はあーんぐりだ。納得の反応。私自身そうなのだ。
「はあ? 娘にって、シルちゃん」
「もちろん、ラムル湖へなんていかないわよね。パン店の看板娘が【精霊】の世界へ消えるなんて……」
まーまは手元で千切っていたブドウパンはもうないのに探していた。ぱーぱが可愛そうに思ったのか、新作のまるごと栗パンをまーまに取ってあげていた。栗がまるごととはいえ、一つのイガに三つあったら、それらを刻んで生地に練り込んであり、真ん中には栗クリームがある菓子パンにしては甘さ抑え気味のものだ。
「落ち着いて、ルイーズ」
「あああ……。看板娘なのはパン店でなくて、アモン家によ」
『分かります。まーまにぱーぱ……。分かっておりますよ。』
ぱーぱが私の小さな肩に手を添えた。
「シルちゃん、僕らにとってどれほどの家族愛を与え与えられてきたか、分かるよね」
【精霊の長】様の様子は、一刻を争う病状があるとも思えない。独特の力で自身の命の炎が尽きる日を知ってしまったのかも知れない。人間だって、何月何日までですと宣告されたら、もう無理をして早く倒れてもいいから、『いってみたいことろへいき、美味しいものを食べ、共に喜び合える人と過ごして残りの日々を謳歌しよう』とする域に達するだろう。
『大切なものの見極めですよね』
「結婚後直ぐに赤ちゃんを迎え入れられた僕達は幸福に満ちていた。シルヴィーと名を決めるだけでも、胸がひりっと感動したものだ」
もしかして、三人で祝っていて昨年三人でラムル湖を訪れたから、【精霊の長】様は勘違いしているのかも知れない。
『この場に、まーまのご両親がいないのをどうしてか分かりますか? 【長】様』
<特段、調べてはおらなんだが>
『近くにまーまのご実家がありながら、初孫、しかもお祝いごとにこない訳はないと思いませんか』
ゆっくりブドウパンを食べていたぱーぱがはっとした顔で私の目に目隠しをした。
「シルちゃん、少し大人になろうな。よしよし、気持ちだけで十分なんだよ」
「二人で内緒ばなし? まーまも入れてよ」
「ルイーズはあとで」
ぱーぱと一緒に首をさっさと縦に振った。哀しそうなまーまをみたけれども、告白するよりいい。
<話によっては出直してくるか、他の候補を考えるかするがの>
≪ピュウイー! 【精霊軍】からのしらせです!≫
≪ピュウピュウイー! 緊急退避! 緊急退避!≫
【精霊軍】は壁をすり抜けてきた。四方から陣を作った。
≪【ウンディーネ】参上!≫
≪【サラマンダー】参上!≫
≪【シルフ】参上!≫
≪【ノーム】参上!≫
≪ご無事ですか? 【精霊の長】様とシルヴィー様≫
外からカラカラと回る音がした。アモン家はよく分からないでいたが正体が分かるのに間は要らない。
ドアがバターンと開いて、足がにゅっと出てきた。男三人らしい。
「ルンルン様のご登場よお――ん」
え? 男女の区別がつきにくい方が登場だ。
「はっはっはっ」
「ルンルン様はお強いぞ。ここの店は繁盛していると聞いて自らお出ましだ」
間違いなく一年前の輩だ。あの乱暴で窃盗や破壊をおこなった者どもだ。
「店を出すならルンルン様にお金を出さないと……、ね、アレなのよん」
そのぐわーって指の仕草は分からない。
『悪いけど、私がしめさせてもらうわ』
「シルちゃん、怪我するわよ」
「目とか使わないんだよ。無双は幸福を導くためにあるんだ」
ぱーぱの武力には武力ではいけないとのこと、私は背中で頷いていた。
≪シルヴィー・アモン様は、次の【精霊の長】となられる方です。後方にいらしてください≫
『火の【サラマンダー】よ、攻撃は最大の防御でもある』
≪しかし、斥候は我々にお任せください≫
『水の【ウンディーネ】よ、ここは私の両親の家である。私が指をくわえているのはおかしな話だ』
≪ご尤も≫
『さすがに土の【ノーム】は話が早いな。【シルフ】もいいな』
≪了解です≫
四天王の後ろにはなんと数え切れないほどの四大軍がいた。普段は普通の【精霊】をしているのだろうが。
『ゆけ! ゆけ――!』
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