Ⅴ 生命

ぷぴ20 誕生日に現れしモノ

 ――ロゼ島へきて、私の生まれ日となった。私は【女神】様とのどさくさで日付も知らなかったし、暦の存在も今頃分かった。


 始まりは秋だという。秋はブドウのための収穫期、霧期、濃霧期で、冬は降雪期、雨期、強風期で、同様に春は萌芽期、花期、牧草期となり、夏は収穫期、盛夏期、果実期と十二区分されているそうだ。ロゼ島の暮らしには農業も欠かせない。うちには山羊とコココがいてミルクと三色卵が楽しめ、実家では機織りやら染色にばあばがはまっているらしい。飽きてくると編み物を始めたり、畑の傍で園芸をしたりとどこかのまーまと同じによく働いているようだ。


『とても農業に寄り添った暦なのでちゅね』

「それでシルちゃんは、ここ!」


 食卓の壁に暦がある。四つの季節と四つの時期に合わせて綺麗な【精霊】の姿が描かれていた。


「冬の降雪期だよ。ブドウも生では難しいから干して食すんだけど、パン生地に練り込んだものも人気があるんだ。シルちゃんが以前食べなかった見た目は青が染み入って食べると甘くなったものだよ」

『レーズンでちゅよね! 悪気はなかったでちゅう。ゆるちてめんめちょ』


 新しい虫だと思い違いしたとは、口が裂けてもいえない。ぱーぱに泣きつく勢いだ。


「今日は、シルヴィー・アモンちゃんのお誕生日なのよ」

「思い出しても泣けてくる……」


 ぱーぱはどうして、よよよ? まだ本日のメインパン、まーまとぱーぱの愛情ケーキも食べてないよ。私はぱーぱが作ってくれた赤ちゃん用の高い椅子、両脇にまーまとぱーぱが座っている。いつもの定位置だが、誕生日かと思うと格別な気がした。


「前の晩からお腹が痛いと言い出して、ルイーズが両親を呼んでほしがっていたんだ。デュフール家へ急いだが、カトリーヌお義母さんは出ていったばかりだとマチュー師匠から聞いたんだ。慌てていたんだな。ではお義兄さんと頼んだら、お産に兄はちょっと配慮に欠けるよと断られて、それでお義父さんのシャルルはと聞くと、海岸までお義母さんを送っていったそうなんだ」

『詰みましたね』

「シルちゃん、冷たい……。シルヴィー・アモンの生誕祝いなのに。ぱーぱに優しくして」


 よよよって力持ちだけど繊細さもあるからパン職人やっていけているのか。しかし、よよよはないかも知れない。


「まだ、よよよなの? ミシェル、無事に生まれたことをお互いに喜び合う日だわ」

「ははは。結局、マチュー師匠にきいて、帰宅されたご両親がうちに寄ってくれたしね」


 まーまは早くパンが食べたいようだ。なんといっても今夜はシルちゃんのお誕生日用の菓子パンがある。ぱーぱの新しいパンも含め四種類だ。取り皿は空で、まーまとぱーぱはいつも通りのブドウジュースだけど、今夜は私にも少し飲ませてくれるそうだ。脱・麦茶となるか!


「どさくさでお母さんの用事なんて皆で忘れていたわよ」

『まだ、シルちゃんは産まれてないでちゅか』

「もう、我慢ができないとなったら、ドアをバターンと開けて飛び込んできてくれたの」


 両手を組んでいただく前のご挨拶の時間になる。


「もちろん、お義母さんだよ」

「お母さんだわ」

『ぐきゅるるる……』


 ご馳走を前に長話をしたとさっと挨拶に入る。


「いただきます」

「いただきます」

『はうう、いただきまちゅ』


 最後は大きなパンを切り分けるとぱーぱが話していた。


『一つ目、噂のブドウパンがおいしいでちゅ。どれも美味しそうでちゅけど』

「微妙な甘さがいいみたいね」


 ちょっと道を逸れてもパンを中心に家族は離れないでいる。立派なことだ。


<覚えているかな。儂だ――>


 【精霊の長】様だ。まーまもぱーぱも気が付いていない。生まれる直前の話なら、わずかに会話したことしか記憶になかった。後で、小さな体に驚き、生きていると分かったものだ。


<儂もあらゆる【精霊】をもって護ってきたが、無事に一年過ごせたようだな>


 【裁縫の精霊】に、私はリボンで【精霊の長】様と繋がっているようだった。時折、額にある目を使用しなくてもリボンからのピンクの力で上手くいくことがありった。けれども、移動パン店を始めたら背中に文様ができ始め、今朝までに十二のくるくると巻いたような文様があるんだ。


<暦を見ただろう。己は豊穣の女神にこの地に生きよと降ろしてもらったのだ。暦を全て通してこられたということは、天候や自然に関わる【精霊】達がシルヴィー・アモンを認めたということになる>


 生まれて直ぐに、【小雪の精霊】や【ぼたん雪の精霊】から祝福をされたことも思い出した。


<暦を歩んで得たものは、分かるか>


 まーまとぱーぱの愛ですか? それとシルへの。


<もちろんだとも。その上でロゼ島でパン店といえばアモン、パッチワークだとまでがんばってこられた。それと山羊や鳥と仲良くしていたようだ。【精霊の長】として、望むものは全て揃った>

『は?』


 思わず声になってしまった。


<そなた、ラムル湖で静かに護っている【精霊の長】、その【むすめ】にならないかと>

『どうして? 私の転生後の成功を祝ってくれましたわ。【精霊】の中に娘として相応しい【精霊】がいると思うわ』


 にこやかに食べていたまーまとぱーぱがこちらを見た。独り言

ではなく聞こえただろう。


<儂はもう長くないと、儂が一番知っているからじゃ>

『だからって』

<頼む>

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