【サイドストーリー】まみch視点

まみch視点:歪んだレンズの向こうで


【配信は、戦いだった】


心霊スポット探索を始めたのは、もう2年前。

配信タイトルはいつも「戦闘態勢」で始まる。

『病みメイクの心霊バスター』という異名も、気がつけば自分で気に入って使うようになっていた。


正直、幽霊なんてどうでもよかった。

重要なのは視聴者の反応。数字、反響、切り抜き、炎上、話題性。


あの夜も同じだった。


ゆみがバズった例の配信。

「マジでヤバい音声が入った」って騒がれて、正直、悔しかった。

だから「一緒に行こう」って誘われた時、即OKした。

JOも乗ってくれて、3人でのコラボ配信。

これ以上ないチャンス。絶対に爪痕を残してやると思った。




【あの樹の前で】


異変が起きたのは、あの杉の木の前だった。

最初はただの心霊スポットあるある。曰く付きの寺、廃墟、仏具の差押え札。

ネタにはなるし、ありがちなオチだった。


でも——あの時。


JOが、振り返って「ゆみ!」と叫んだ時。


ゾワッとした。


冗談でビビるんじゃない。

カメラ越しじゃなく、“人間の気配”が変わる瞬間を、肌で感じた。


カメラを構えていたから、冷静さを保てた。

いや——保とうと必死だった。


「なんか、おかしいって。JOの顔……あれ、誰?」


ゆみに声をかけたが、彼女も半泣きだった。


それでも、私は撮った。

逃げ出さず、レンズ越しに事実を抑え続けた。

——“戦場”でレンズを向けるのは、逃げるより怖い。




【配信のあと】


車に乗ってからの記憶は曖昧だ。

公園じゃない、荒れた畑に車があった。

GPSもおかしかった。

何よりも怖かったのは、帰り道のJOが「普通」に戻ってたこと。


あれが演技だとしたら天才だし、もし演技じゃなかったら…


あの日の夜から、私はコメント欄を見るのが怖くなった。


リスナーの中には「まみちゃんかっこよかった!」という声もあった。

でもそれよりも、「JOの顔、住職の動画の人と同じだよね?」という書き込みを見た時、

心の底が冷えた。




【それでも、私は配信をやめない】


今でも、配信は続けている。

だけど以前とは違う。

怖い話や心霊体験を語る時、本気で「笑えないこと」があるって知った。


コメントの中に、こんな一文があった。


「あの時まみchがレンズを向けてくれたから、真実が残ったんだよ」


嬉しかった。

でも同時に、怖かった。


あのレンズの向こうにいた“何か”は、今も録画の中に残ってる気がする。

いつか、それが“外”に出てくるんじゃないかって。


それでも、私は今日も配信をする。

カメラを構える。

“次”が来ても、私は逃げない。


——だって私は、まみchだから。

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