Chapter31 宗谷岬①

        流氷は歩けます


宗谷岬が見え、コトブキ達の車が国道の向かいの駐車場に入ると、10台近い車が次々と付いてくる。

車からコトブキだけが降りる。

他のクルマからは誰も降りないが、ハタノだけが降りてくる。

コトブキとハタノは互いの車越しに向かい合う。

最初にハタノが喋り出す。


「その女には俺の方が先客だ」

「後先の問題やない」

「神の言葉にこうある。わたしは初めであり、終わりであり。そして終わりであり初めである」

「お前は殉教者やったな。が、鏡子には関係ない」

「譲ってくれよ」

「弱気な振りしても無理やで」

「鏡子と行くのか?コトブキ」

「俺は命を返すだけや、よりドラマチックにな。お前は、一緒に行く事が目的かもしれんが、そこに意識しすぎると足元救われるぞ」


コトブキは、車から鏡子とモリオに降りるように促す。

腕にチタン手甲をつけたまま、ライフルホルスターを腰に付け、銃身を短くカットした2連式散弾銃をリアシートから取り出し、ホルスターに刺す。

モリオは同じ散弾銃を直接手に持つ。

モリオに赤い実包カートリッジを、コトブキが2つ渡す。


「ゴム製の模擬弾ダミーや、万が一当たっても死にはせん。間違ってもヒト殺しとかしたく無いやろ?」


モリオは、模擬弾の実包を受け取る。


カスミとモリオと鏡子は車を離れ、身を寄せて岬に歩き出す。


「モリオ、お前が殿しんがりにおれ、ヒトのお前がおれば誰も打ってこん」

「カラス達の麻酔銃は?」

「それは上手く避けろ」


そう言われて、モリオは渋々一番後ろを歩く。


「そろそろ何をするか話してくれよ。ここまで付き合っているんだ、。俺も、もう後戻りできない」


「俺は命を返さなあかんのや、寿々は自分を探せと言っとった」

「それが私?」

「どうやろう?違うかもしれん。ただ命はお前に返す」

「どうやって?」

「寿々は、俺にキスをして命をくれたで」

「えー」

「キスぐらいええやろう?」


コトブキと鏡子は岬の先端まで来る。

その周りを10メートルほど離れて、20人程のカラス、ハタノ、裏切りマレビト部隊の3人が囲む。


海を見ているコトブキ、歩ける程に敷き詰まった流氷が果てしなく海面に続く。


「行くって、どう言う事?」

「さあな、ハタノに聞いてくれ。」


鏡子は海を見る。


「流氷を歩いてサハリンに行けって言うんじゃ無いよね?」


海の向こうに船影が見える。 


「何あれ?」


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