Chapter30 ようこそマレビトのいる世界へ②
国体
カガミは言葉を選ぶように話し出す。
「太平洋戦争というものは、イギリスへの宣戦布告で始まる。欧州型君主国家の否定から始まったソビエト連邦の赤波は世界の 3/1を覆い尽くし、この国がイギリスとの太平洋戦争に明け暮れいる隙に、世界の3分の2は共産主義国家になった。その勢いのまま、ソ連は日ソ不可侵条約を破り、日本の支配下の満洲に背後から攻めこみ、北海道まで占領する。国体を死守する為に本土決戦も覚悟していたが、同じ王制死守の対戦国のイギリスの主導で、敗戦を受け入れポツダム宣言受諾。すんでのところで、共産国家にはならなかったが、北海道返還後、ソ連には頭が上がらず、現政治体制は民主党と共産党の二党制になり、近代民主主義と発展型社会主義の国家運営の実験場となった。沖縄、朝鮮半島、台湾は戦後独立、冷戦は主にヨーロッパが主戦場となり、自衛隊の発足の主目的は、東南アジアまで飲み込んだ蒋介石の末裔が牛耳る大中華民国に対してのものになった」
少し考えた後、コトブキが喋り出す。
「さっき国体って言ったよな?天皇のことか?」
「天皇?国体は、国体だ」
「やから、帝ってことやろ?」
「そうだ」
「じゃあ、天皇やんけ」
「そんなものは知らない、国体は現人神であられる」
「じゃあ、その現人神は今どこに?」
「国体は2000年、京都に変わらず御座されておわす」
「それはヒトか?」
「その様な事は口にするものでは無い」
「ああ、そういう事、じゃあそれはいい」
カガミは思い切ったように喋り出す。
「君の理屈で、この世界の辻褄が合う事に、今気づいたよ。沖縄の独立はマレビトの〈この国から出れない〉という範囲を狭め、社会のあり方が随分とマレビトが存在する為に都合良い。僕達はそれぞれの世界で鏡子のような女と触れ、違う世界から来た人間のようだ」
コトブキはニヤリと笑う。
「また人間て言うたな。やっぱりお前は、同じ世界線から来た」
「君とは千年近い時間の隔たりがある。そこはもう意味を成さないよ。僕達の存在意義は鏡子を探し、それぞれの物語を終わらせる事、僕は千年が経ち、この世界のヒトになった事で、物語を降りた。残ったのは君とハタノだ。他のマレビトもまた違う世界から来た人間かもしれないが、それは分からない。でも、この世界で鏡子を追っているのは、僕達だけの物語だ」
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