そして、世界が動き出す

ちょっと私の他作品とクロスオーバーします。

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── ??? 視点 ──


「む……?」


いつもと何も変わらない、物が何も置かれていない純白の空間。その空間の中でいつもと同じように魂の選別を行っていた我は、不意に魔力と魂が捧げられたことを感じ、そう声を漏らす。


「何だ……?まだ"奉納"には早いが……。」

「報告。」


我が疑問を溢すと、どこからともなく現れた一人の男がそう我に告げる。


── この空間と同じ純白の髪を背中で一つに纏めた、感情の感じられない翡翠色の瞳の彼は、その瞳と同じく感情を一切感じさせない中性的な声で続ける。


「下界にて、新たな"適合者"が出現した模様です。」

「それは誠か!ならばすぐに……。」

「不可能です。」


その報告を聞き、即座に確保に動こうとした我だったが、彼の言葉に動きを止める。


「どういうことだ?」

「既に他の神格による庇護を受けています。」

「む……。」


基本的に、各神格の被庇護者お気に入りには互いに不干渉。神格の間で決められたその規則を思い出し、我はそう声を漏らす。


「……ならば仕方ない。ユーリ、"適合者"と庇護者の調査を。」

「了解。……ん。」


我の言葉に頷きこの空間を後にしようとしたユーリが、不意にそう声を漏らす。


「報告。」

「今度は何だ?」

「『魔の森』のフェンリルオオカミが討伐されたようです。」

「……何?奴は我の眷属の中で最も神に近かったはず……。」

「事実です。反応と"因子"が消失しましたので、間違いないかと。」

「むぅ……。」


奴のことは我も気に入っていた。故に、奴を弑した者を野放しにしておくのは許せない。


「……"神雷"。」


我は小さく呟いて純白の雷を生成すると、下界に放つ。この雷のターゲットはフェンリルの討伐者。どんな防御も隠蔽も無効化するこの雷ならば、その討伐者を屠ることなど容易いだろう。


「……これでいいな。ユーリ。調査は任せたぞ。」

「了解。」


そう言って、ユーリは今度こそ姿を消す。


── しかし、"適合者"か……。我の世界に出現したのは僥倖であった。誰が庇護しているかは分からぬが、余程のことがなければ我が確保でき──!?


我が一人、そんなことを考えていると、不意に懐かしい気配が背後に出現する。咄嗟に体を逸らすも、躱し切れなかった斬撃が我の左腕を斬り飛ばし、そのまま消失させる。


── 今のは……。一体誰が……。


その神に届きうる一撃に、我は急いで発動者を調べようとする。しかし、


「!?干渉不可、だと……!?」


先程の斬撃の影響か、我は下界に干渉できなくなっていた。


「ちぃっ……。……仕方ない。再び干渉が可能になるまでは、回復に努めるとしよう……。」


その事実に歯噛みしつつ、我は力の回復に着手するのだった。






















── 同時刻 ──

【逾槭?蝗?子の獲得者が現れました。】

「── おや?またですか。」

「珍しいな。ここまで立て続けに"適合者"が現れるのは。」

「これで彼らを含めて三人目ですかね?……でも、そんな存在いたでしょうか……。」


三つの存在が語り合う、他の次元から完全に隔絶された空間に、そんな声が響く。


「我も心当たりはないな。」

「私もです。……少し、調べてみますか。」


そう言って半分笑顔、もう半分が泣き顔の仮面をかぶっている、スーツを身に着けた男性がどこからともなく百科事典ほどの大きさの書物を取り出し、頁をめくる。


「……おや。なるほど……。……これは面白いことになりましたね……。」

「どうだった?」

「どうでしたか?」


そんな彼の手がとあるページで止まったかと思うと、彼は心底面白いといった風な言葉を漏らす。その言葉を聞き残りの二つの存在が彼に問いかけたところで、この空間に新たな存在が現れる。


「おや。あなたからここに来るとは珍しいですね。」

「何か大きな力を感じたので。」


仮面とスーツの男性の言葉に答えたのは、ジーパンと白いパーカーを身に着け、腰のあたりまで伸びた雪のように白い髪を後ろで一つに纏めた、非常に可愛らしい顔立ちの少年だった。


「あれ、何なんですか?」

「簡単に言ってしまえば、君の同位体です。」


そんな彼の問いかけに、仮面とスーツの男性はそう答える。


「同位体?」

「ええ。以前、並列世界についてはお話ししましたよね?」

「はい。……あ、そういうことですか。」

「理解が早くて助かります。……しかし、素晴らしいですね。この一年で、同位体が"適合者"となるとは。」

「そんなに凄いことなんですか?」

「もちろんです。ただでさえ"適合者"となりうる器をを持つ人間が少ないのに、それが同位体で、なおかつ逾槭?蝗?子程の厳しい鍛錬を耐え抜いたとなると、それは相当に貴方達の根源が優れていたということですからね。……事実、これまでこのようなことは起こらなかったわけですし。」

「そうなんですね。……僕の同位体、か。一度会ってみたいですね。」

「このまま順調に適合していけば、いずれ会う時が来ると思いますよ。」

「そうですか。……じゃあ、僕は帰りますね。」

「ええ。妹さんにもよろしくお伝えください。」


そんなやり取りを最後に、少年は空間を後にする。


「……これは、時代が動きますよ。」

「だな。」

「ですね。……もしかすると、今後も"適合者"となる同位体が出てくるかもしれませんしね。」

「まあ、そこは今後の彼らに期待ということで。作業に戻りますよ。」

「そうだ。這い寄る混沌ニャルよ、ここはどうする?」

「そうですね……。……このくらいでどうです?」

「これなら問題は起きなさそうだな。」

「このアイテムの性能は ──」

「使用者を制限する形にしてはどうでしょうか?それか ──」


そして、少年の立ち去った空間で、三つの存在は中断していた作業に戻るのだった。

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