森の異変

「ごめんね。」

「ギャウ!?」


森の中を駆け抜けつつ、僕はちょうど前を走っていたフォレストウルフを斬り捨てる。後ろではまだ余裕のありそうなミリアと少しきつそうなトウカ、そんなトウカを気づかう様子を見せつつ走るレオンの姿があった。


「あとどのくらい!?」

「もうすぐ!」


後ろから聞こえてくるミリアの問いかけに、僕はそう答える。


── その瞬間、一際強い魔力の波がこちらへ向かってくる。それは僕だけでなく全員が感じたらしく、後ろの皆が速度を上げたのを感じる。


「ちょっと先に行ってるね!」

「うん!」

「おっけー!」

「頼む!」


僕は三人にそう伝え、僕は雷魔法で加速して森の中を一気に駆け抜ける。


「── 見えた!」


そして反応のあった辺りへ辿り着くと、僕の視界の先に少しひらけた空間と、そこに陣取る謎の集団が映る。


── その集団は、全員が黒いローブを身に纏っており、集団の中央に置いてある大きな装置に魔力を注いでいる。その装置は大きな魔石を中心に大小様々な魔導具が取り付けられており、更に幾重もの防御用の結界が張られている。


「……む!?何や ──」


僕のことに気付いたのか、集団の中で見張りをしていた人がそう声を上げる。しかし、その言葉を言い終わるより早く、僕は手に持っていた"風流"による峰打ちでその人を黙らせると、一人、集団に相対する。


── 大体100人くらい、か。多分もうすぐミリアたちもここに辿り着くと思うけど……。……少しでも減らしておこう。


そして僕は集団に突っ込むと、"風流"と"琥珀"を振るい次々と黒ローブを気絶させていく。


「ノア君!大丈夫……って何これ!?」

「ミリア!トウカ!レオン!まずは人を減らすよ!だけど、極力殺さないようにして!」


すると、不意にそんな声が聞こえてくる。僕は3人に指示を飛ばしつつ、手を止めずに人を減らしていく。


「くそっ、まさかここまで早く人が来るとは……。仕方ない、起動するぞ!」


僕たちによってどんどん人が減っていく様子に、集団の中でも特に装置の近くにいた一人がそう指示を出す。それから間も無くして、魔石が輝き始める。


── その瞬間、森がざわめく。そして、僕たちを囲む森の中から大小様々なモンスターが飛び出してくる。


「来たよ!各自対応して!」


それを確認し、僕は手の中で"風流"と"琥珀"を反転させ、モンスターを次々に屠っていく。


── 不味いな……。前よりもモンスターの数が多い。あの時とは違って、大きな魔石を一つ使うって形だからかな?まあ、それは置いておいて……。……今はミリアたちで対応できるモンスターばかりだけど、ここからもっと強いモンスターが出てこないとも限らない。そうなったら、僕がなんとかするしかなくなるけど……そうなると今度はこっちの装置にちょっかいをかけられる人がいなくなるんだよなぁ……。


僕がそんなことを考えつつモンスターを屠っていると、突然黒ローブのうちの何人かがその場に倒れる。そしてそれと同時に、魔石がその輝きをどんどん増していく。


── 何だろ?魔力を注ぎすぎて魔力切れになった……?……いや、にしては突然すぎる……まさか!?


その様子を見、とある可能性に辿り着いた僕は、周囲のモンスターを一息に斬り伏せると、倒れた黒ローブに駆け寄り、首元に手を当てる。


── やっぱり……。……ってなると……!


そして脈が無くなっていることを確認した僕は、予想を確信に変える。そして、少しでも魔力の供給を止めるべく黒ローブに視線を向ける。


「……やむを得ん、か。我らが神に栄光あれ!」


しかし、装置の近くにいた人影がそう高らかに宣言すると、今まで立っていた全ての黒ローブが地に倒れる。


「!?」

「何事!?」


それを見、3人も驚きを隠せないようだ。


── くそっ、間に合わなかった……!何人かは隔離しておいたから無事だけど……。この感じだと、情報は落としてくれなさそうかな。それよりも問題なのは、この装置の機能だよね。さっきのでエネルギーは溜まっちゃっただろうし……変に動く前に、壊しちゃうか。


僕は装置に正面から向き合い、二振りの刀を大上段に構える。そして、


「桜花流刀術・一式……!?」


そのまま装置に振り下ろそうとしたところで突然背筋に悪寒が走り咄嗟に刀をクロスさせて背中を守る。


── その瞬間、どこからともなく飛来した巨大な氷の礫により、僕は数メートル吹き飛ばされる。


「お兄ちゃん!」

「大丈夫。それより、今のは……ッ!?」


僕に駆け寄ってくるトウカに問題はないと伝えつつ、僕は礫の飛来した方を見る。そして、そこに現れた新たな敵の姿に、思わず目を見開いた。


── そこにいたのは、1匹の巨大な狼だった。だが、その毛皮は先程通りがかったついでに倒したフォレストウルフの灰色のそれとは違い透き通った水色をしている。


「あれは……まさか……!?」

「ルオォォォォォォオオオン!」


その特徴的な姿に僕が思わず声を漏らすのと同時に、狼は大きな遠吠えをする。


「嘘……!」

「体が……。」

「動かん……!」


その声に込められた圧力に、僕以外の3人も、周囲のモンスターも、全てが動きを止める。


── この見た目に、圧倒的な威圧感……。ほぼ確定かな。だけど……。


「なんで出てくるかなぁ……『森の主』……!」


この場で唯一動くことのできる僕は、"風流"と"琥珀"を握り直すと、『森の主』 ── 最低でも二百年以上前からこの森の奥に暮らしている存在であるフェンリルに向き合いつつ、そう呟くのだった。

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