氾濫①

伝令の魔導具の報告を聞くと同時に窓から外に飛び出した僕は、街の状況を気配から読み取り、思わず眉を顰める。


── おかしい。通常の氾濫スタンピードなら、ダンジョンの出入り口から全方向に向けてモンスターが進んでいくはず。なのに、今回の氾濫では的確にこちらの人が多く住んでいる方にのみ向かってきてる。と言うことは、少なくとも指揮官がいる。……とりあえずは逃げ遅れた人たちを助けつつ、指揮官を探すか。


そんなことを考えている間にも、僕は雷のような速度で街を駆け抜けていた。もちろん、いつもの状態じゃこんな速度は出せない。


── でも、この雷装らいそうが使えるようになってて助かったな……。これがなかったら、もしかしたら間に合わなかったかもしれない。


そのまま最前線に辿り着いた僕は、


「早く逃げろ!」


と、逃げ遅れた人たちに向けて叫ぶ。そして虚空から風流を取り出し、モンスター達に向け振るう。


── その瞬間、道を埋め尽くすほどに溢れていたモンスターの集団が、全て斬り払われる。


「ここは僕が引き受ける!だから早く!」


その光景に呆然としていた人々は、僕の声で正気に戻り、そのままギルドの方は向け走っていく。


── ここはこれで全員。でも、まだまだ逃げ遅れた人はたくさんいる。とりあえずは、そっちを優先かな。


周囲の気配からまだ逃げ遅れた人がいることを確認した僕は、残りの人たちのいる方向へ向け走り出すのだった。


── 数分後 ──

「大丈夫ですか!」


あの後、逃げ遅れた人たちを全員助け出した僕は、そのまま氾濫の発生したダンジョンに辿り着いていた。そこでは何人かの傭兵と思しき人たちが何とかモンスターの襲撃を凌いでおり、こちらを見ると


「早く逃げなさい!」


と言ってくる。


「僕は冒険者ギルドからの援軍です!」


僕はそう返しつつ、今もなおダンジョンから溢れ出してくるモンスター達を次々に斬り伏せていく。そして氾濫の勢いがおさまったところで、僕は彼らに状況の説明をしてもらうことにした。


「俺らはこのダンジョンの入り口で見張りをやってるんだが、急に中にいた冒険者たちが一目散に逃げ出してきたんだ。それで何があったのか聞こうとしたら、いきなりダンジョンからモンスターが溢れてきてな……。」

「何か前兆のようなものはなかったんですか?」

「いや、特に異常はなかったはずだ。」


── となると、おそらくこの氾濫は人為的に引き起こされたと考えてよさそうだ。


「ちなみに、ダンジョンの入退場記録って見れますか?」

「あ、ああ。」


そう言うと彼は、1つの魔導具を手渡してくる。


「これに、直近1週間の記録が保管されてるはずだ。」

「ありがとうございます。」


僕がそれを虚空にしまったところで、アーサーさんがこの場にたどり着く。


「ここにいたのか。状況は?」

「とりあえず、街の人たちは全員逃がしました。今はちょっと波がおさまって、次の波が始まるのを待ってるところです。」

「了解した。……でも、よくあの量相手に1人で何とかできたね?」

「これでも、それなりには鍛えてるので。」

「それでどうにかなる問題じゃないと思うんだけど……っておっと。来たね。」


そう彼が言うと同時に、再びダンジョンからモンスターが溢れ始める。


「とりあえず、残りの人たちもこっちに向かってきてる。皆が到着するまで、何とか凌ぐよ。」

「了解です。……でも、掃討しちゃってもいいんですよね?」

「それができるならするに越したことはないけど……。」

「じゃあ、僕が大半のモンスターを担当します。討ち漏らしがあったら、それに対応してもらっていいですか?」

「え!?いくら君が強いって言っても、それは流石に……。」


そう言う彼を無視し、僕は溢れてきたモンスターを全て斬り伏せる。


「こんな感じで、結構余裕はあるので。」

「あの量を一撃で……?……わかった。お願いするよ。」


その言葉を聞いた僕は、風流を正眼に構えつつ、とある魔法を展開する。


その瞬間、ダンジョンから一気にモンスターが溢れ出してくる。僕は次々とモンスターを斬り伏せていくが、流石にそれだけじゃ追いつかない。


しかし、モンスターが僕の横を通り過ぎようとした瞬間、雷でできた矢がその体を撃ち抜き、絶命させる。


雷魔法、自動迎撃オートインターセプション。一定の範囲内に侵入した対象に、雷の矢を放つ魔法だ。それを自動でやってくれるから、こういう時には便利な魔法だ。


そんな魔法の助けも受けつつ、僕は1人でダンジョンから溢れてくるモンスターを捌き続けるのだった。

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