認定式と……
アーサーさんの後について歩いていくと、やがて一枚の大きく、そして荘厳な扉が見えてくる。その奥からはざわめきが漏れ聞こえてきている。
「ここが会場だよ。扉が開くまではここで待ってて。扉が空いたら、そのまま真っ直ぐ行って、明らかにお偉いさんです!って感じの人の前に魔力で線が描かれてるから、そこで止まって真っ直ぐその人の方を見てれば大丈夫だよ。あとは……その人に何か聞かれたら、簡潔に答えるようにしてね。……それじゃあ、頑張ってね。」
そう言って、アーサーさんはこの場を後にする。
「……あの……。」
沈黙に耐えかねたのか、トウカさんの方から僕に話しかけてくる。
「1つ、聞きたいことがあるのですが……。」
そう言うと、彼女は1つの懐中時計を取り出す。蓋の部分に虎と藤を象った紋章の描かれた、僕が夢で見たのと同じ意匠の懐中時計だ。
「この懐中時計に、見覚えはありませんか?」
僕は言葉で答える代わりに、胸元から同じ意匠の懐中時計を取り出す。
それを見た瞬間、彼女はどこかわかっていたような、でも驚いたような表情を浮かべる。
── つまりは、そういうことだろう。
「それは……!」
「僕があのギルドに拾われた時に、唯一持っていた物です。ただ……実は、どうやら僕に、記憶の封印がかかっているらしく、ギルドに拾われる前のことを何も覚えてないんです。」
「なら、すぐに解除を……。」
「僕もそれは考えました。ただ、非常に強い封印なのと封印されている記憶の量の問題で、一度に解放してしまうと何らかの後遺症が残る可能性があるんです。」
「……つまり、自然とその封印が解除されるのを待つしかない、と……?」
「そういうことになります。ただ、僕の方でも封印の解析は行っていますし、何らかのきっかけがあれば記憶をすぐに解放することもできると思うので。」
僕がそう言うと、彼女は少し考えたのち、こう言う。
「でしたら、私たちにも協力させていただけませんか?……その懐中時計を持っているということは、あなたが私たちの探している人である可能性が高いので。」
「そう言っていただけると助かります。1人でやるには、少し荷が重いことだったので。ところで……。」
僕が続きを話そうとすると、ゆっくりと扉が開き始める。
「……どうやら、時間のようですね。この式典が終わったら、また話をしても?」
「わかりました。こちらも準備しておきます。」
最後にそう予定のすり合わせを行い、僕たちは式典に臨むのだった。
── その後の式典は、恙なく進んでいった。こちらに対して敵意を向けたりする存在もなく、式典は終盤に差し掛かっていた。
「── ところで、Sランクとなった冒険者の方々には私たち冒険者ギルドの方から1つ、何か望むものを送ることになっているのですが、何か欲しいものなどはありますか?」
そう聞いてくるのは、世界各地に存在する冒険者ギルドの中で最も地位の高いと言われる、グランドマスターだ。灰色の髪と瞳をしており、一見穏やかな好青年に見える彼だが、その実Sランク冒険者にも引けを取らないと言われている。
── 噂通り、彼自身もかなり強そうだ。と言うか、多分僕を除くとこの中じゃ一番強いんじゃないかな?……でも、何でまた能力の制限なんて……。
"鑑定"スキルで彼を見、そんなことを考えつつ、僕は先ほどの問いに答えようとする。
── さっき風流が、この辺りから懐かしい気配がするって言ってたし、お願いするとしたらそれかな……。
僕がそんなことを考えていると、不意に僕の"気配察知"に異様な反応が発生する。
── これは……!
通常ではありえないその反応に、僕は思わずその気配の方向を向く。その僕の行動に、少しのざわめきが生まれる。
「どうかしましたか?」
グランドマスターがそう聞いてくるが、それに答える余裕はなかった。
── ダンジョンの外なのに、モンスターの反応……と言うことは……。
そのまま近くの窓に近づいた僕は、その窓を開け放つ。
するとそれと同時に、開け放った窓から何かが飛び込んでくる。それは、鳥のような形をした魔導具だった。
「おや、伝令の魔導具が……。」
その魔導具はグランドマスターの前まで飛んでいくと、おそらくこの街を警備する警備員の声だろう、焦った男の声で内容を伝える。
「す、
その報告を聞き、騒然となる会場。僕はそれを横目に、窓から飛び出してモンスターのいる方向へ急行するのだった。
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