邂逅

翌日。僕は昨日ギルドマスターに言われた通り、ギルドに足を運んでいた。


「おう、来たか。」


中に入ると、ギルドマスター直々に出迎えてくれる。


「言われた通り来ましたけど、例のアレはどこで出せばいいんですか?」

「そういやお前は解体場に行ったことがないんだったな。こっちだ。」


そう言うギルドマスターについて歩くこと約1分、僕たちはギルドの裏手にある解体場に辿り着いた。


「おーい、ディル。例のやつ、連れてきたぞ。」


ギルドマスターは中に入ると、そう大声で呼びかける。


「はーい。」


するとこちらに向かい、痩身の男性が向かってくる。


「彼がそのミノタウロスを討伐したって言う人ですか?……僕が言えたことじゃ無いですけど、信じられないですね。」


彼は笑いながらそう言う。しかしそこに僕を嘲るような様子はなく、ただ自分の思ったことを言っているように感じられる。


「で、そのミノタウロスの死体ってどこにあるんです?」

「それならこいつが持ってる。」とギルドマスター。

「この辺に出せばいいですかね?」

「ああ。」

「わかりました。」


僕はそう言うと、虚空にしまってあったミノタウロスの死体を取り出す。それを見た周囲の人たちから驚愕の声が上がる。


「これがそのミノタウロスですか。確かに普通のやつよりも大きいですね。じゃあ、早速バラしちゃっても?」

「ああ。よろしく頼む。」


ギルドマスターがそう言うと、ディルと呼ばれた男性はどこからともなく取り出した解体用の大きなナイフで手際よくミノタウロスを解体していく。その包丁はミノタウロスの弱いところを的確に切っていき、抵抗を感じさせない。


……へー、そこはそうやって切るといいのか。勉強になるなぁ……。


僕がそう思いつつ解体を見ていると、あっという間に解体が完了する。


「ふう。終わりました。かなり手強かったですけど、その分いい素材が採れましたよ。ところでこれ、どうします?」


と、彼はミノタウロスの魔石を渡してくる。


「これまたでかいな……。」


と横でギルドマスターが呟くのを聞きつつ、僕は奇妙な感覚を感じていた。


……なんかこの魔石、僕と繋がってるような感覚がある。


するとギルドマスターがふと何かに気づいたような顔をすると、僕にこう聞いてくる。


「ん……?なんかそれの魔力、お前のやつに似てないか?」

「あ、やっぱりそうですよね。」

「たまたま近い波長の魔力なのか……?いや、それは考えにくいな……。なら何故……。」


ここで一つの仮説が思い浮かんだ僕は、ギルドマスターに聞いてみる。


「そういえばギルドマスター、僕たち冒険者みたいなある程度魔力を持った生き物の血って、モンスターを強化する性質がありませんでしたっけ?」

「ああ、そうだが……。……まさか!?」


するとギルドマスターも僕と同じことに思い当たったようで、目を見開く。


「おそらくこいつ、僕の血で進化したんじゃ無いでしょうか?」

「その可能性は高いな。なんで下層のモンスターが最上層に出現したのか謎だったが、それなら説明がつく。おそらく以上出現イレギュラーで出現したのは、中層に出現するアンガーブルだろう。それがお前の血で、このミノタウロスに進化したと考えるのが妥当だ。」

「そうなると新緑の風あいつら、このままで大丈夫なんですか?」

「いや、もしそれが正しかった場合、冒険者の資格は剥奪され、最低でも10年は鉱山行きだな。」

「じゃあ、逃げられる前になんとかした方がよくないですか?」


僕がそう聞いた時、周囲でざわついていた人たちの中から見覚えのある3人がこっちへ向かってくる。


「おい、そこのお前!」


……この偉そうな声は……。僕がそちらを見ると、そこには案の定、新緑の風の面々がいた。


「お前がこいつを倒したのか?ならちょうどいい。お前、うちのパーティーに入らないか?ちょうど今前衛がいなくてな。」


……いきなりこっち来て、なに言ってるんだライアスこいつ?僕はシンプルにそう思った。するとギルドマスターが


「これはちょうどいいところにいたな。ちょっとお前らに聞きたいことがあるんだ。」


と、凄みのある笑顔で話しかける。


「なんですか?今俺らは彼と話してるんですけど。」


ギルドマスターに対して不遜な物言いをするライアス。


「いや、ちょっと前のノアのことについて改めて聞いておきたいことがあってな。」


その言葉を聞いた瞬間、彼らの顔に一瞬動揺が走る。


「ど、どうして今頃そんなことを?」

「いや、ふと気になってな。それに、もしそれが嘘だった場合ちょっとめんどくさいことになるかもしれないんだ。」

「何度も言ってますが、俺たちはやってませんよ。」

「ほーう。じゃあ、これはなんなんだ?」


そう言ってギルドマスターは、僕が昨日渡したあのナイフを取り出す。それを見た瞬間、彼らの顔色が一気に悪くなる。


「そ、それは……!」

「これか?これはそこにいる親切な冒険者が拾って持ってきてくれたものだ。この紅のナイフ、確かお前らが持ってなかったか?」

「他、確かに持ってましたけど!それが俺らのやつだって証拠はないでしょう!」

「まあ、それは確かにそうだな。だから、ここは冒険者らしく白黒つけようじゃ無いか。」


そういうとギルドマスターはニヤリと笑い、こちらを見ながら言う。


「このナイフを持ってきた彼とお前らで、模擬戦をしろ。冒険者は実力が全て。冒険者らしく、腕っぷしの強さで決めようじゃ無いか。」

「わ、わかったよ!」


どうやら、突然彼らと戦うことになったらしい。

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