決別

その後僕たちの周囲は整えられ、この場で模擬戦をすることになった。


……ここまで開けた場所だと糸は使いづらいけど、まあなんとかやるしか無いか。


「お前にはなんの恨みもないが、ここで痛い目を見てもらおうか。」


ライアスが僕にそう言い放つ。


……こいつ、いちいちこっちをイラつかせてこないと気が済まないのかな?


そう僕が考えていると、このギルドのサブマスターにして現役Sランク冒険者のアルバートさんが、結界を張り終えたと報告する。


「それじゃあ、ルールの確認だ。相手の殺害は禁止。どちらかが戦闘不能になるまで、試合は続行する。戦闘不能か否かは、審判である俺が判断する。両者準備はいいな?では、始め!」


「先手必勝だ!」


ライアスはそう言い、即座に詠唱を始める。


……前から思ってたけど、遅くない?


僕は素直にそう思った。こんな隙だらけじゃ、殺してくださいと言ってるようなものじゃんか。


僕はもうすぐ魔術が完成すると言うところで、彼の背後に浮かんでいた魔法陣に魔力の塊を当て、魔法陣を破壊する。


……それに魔法陣は見えなくしとかないと、こうやって破壊されちゃうんだよね。すると頭の中に、ナビィの声がする。


【確認しました。スキル |魔導書《グリモワール に、炎魔術 フレイムランスが登録されました。それと同時に スキル 瞬間記憶を獲得しました。】


何!?なんか知らないスキルなんだけど!?


僕がそのことに驚いていると、ライアスが


「お前、今何をした!」


と聞いてくる。


「え?何って、魔法陣を破壊しただけだよ?」

「どうやってそんなことを!大体、詠唱もなしにそんなことが──」


あぁ、うっさいなあ。流石に我慢の限界が来た僕は、右腕を横に一振り。たったそれだけで、彼らは全員僕の糸に絡め取られ、動けなくなる。


「なっ!放しやがれ!」


ライアスがそう言うが、糸から抜け出せる気配はない。


「そこまで!」


ギルドマスターがそう宣言し、試合が終わる。


「さて、これでお前らが負けたわけだが……」


とギルドマスター。


「お、俺らはやってないぞ!」


となおも喚くライアスに、ギルドマスターがここで止めを刺す。


「はぁ……。まだそんなことを言ってるのか。そもそも鑑定スキルでこれがお前のもので、ノアの血液がついてるって結果が出てんだよ。」


その言葉を聞いた瞬間、ライアスは大きく目を見開き、絶句する。


「そもそもこれはこいつの実力を見るためにやった模擬戦だったから、勝とうと負けようと変わりはなかったんだよ。」


そこで彼は言葉を切り、こちらを向く。


「それにお前らは気づいてないようだから教えてやるよ。こいつ、お前らによーく関係のある奴だぜ?」


するとライアスはこちらをじっと見た後、何かに気づいたような顔をする。


「も、もしかしてお前、ノアなのか!?」

「逆に今まで気づいてなかったの?」

「な、なあ!俺らは仲間だろ!?許してくれよ?」

「じゃあ逆に聞くけど、人をあれだけ使うだけ使って、ろくに金も払わず、挙げ句の果てには殺そうとまでしてきた人を、仲間だと思えるの?少なくとも、僕は無理。僕は君たちを許すつもりはないよ。」


僕がそう言うと、彼らは諦めたように項垂れる。


「正直に言うと俺もこのことを許すことはできない。だからここに宣言する!新緑の風の面々は冒険者資格を剥奪の上、ギルド関係施設への立ち入りを禁じる!そしてこの件についてだが……。」


ギルドマスターはここで一旦言葉を切り、後ろを向く。


「ここからは国の仕事だ。あとは頼んだぜ。」


すると人混みの中から数人の兵士が出てきて、彼らを運んでいく。


これで彼らとは決別だ。思ってたのとはちょっと違う形になったけど……。


「彼ら、どうなるんですかね。」


僕はギルドマスターに聞く。


「さっきも言った通り、最低でも鉱山で10年、ライアスに関しては25年くらいは働くことになるんじゃないか?」

「そうですか。」

「ところでお前、ほんと強くなってんな。前までも十分強いと思ってたが、これだったら……。」


彼はそう言うと、少し考えるようなそぶりを見せる。


「どうしました?」

「お前、Sランク冒険者になるつもりはないか?」

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