第10話 癒えぬ傷跡

病院の個室は静かだったが、5人の心はまだざわめいていた。


「彩花…本当に…終わったんだよね…?」


美咲がベッドの毛布を握りしめ、震える声で尋ねる。


窓の外は夜の闇に包まれ、遠くで救急車のサイレンが響く。


「うん、美咲。終わったよ。もう…安全だよ。」


彩花は隣のベッドから微笑むが、彼女の目も疲れで曇っている。


「でも…あのカメラ…全部…見られてたよね…」


玲奈が膝を抱え、毛布に顔を埋める。


「玲奈、考えないで。今は休もう。」


結衣が玲奈の手を握り、優しく言う。


「…休んでも…あの夜は消えない。」


真央が低く呟き、壁を見つめる。


5人は病院の特別室に集められ、毛布にくるまっていた。


テロリストの襲撃から解放された夜、医師とカウンセラーが5人を診察し、休息を勧めた。


「彩花…私…まだ怖いよ…」


美咲が毛布を強く握り、目を潤ませる。


「美咲、大丈夫。そばにいるよ。」


彩花はベッドから手を伸ばし、美咲の指を握る。


「ありがとう…彩花…みんな…」


美咲は小さく頷き、涙を拭う。


「結衣…明日…何が待ってるんだろう…」


玲奈が不安げに囁き、結衣の腕に寄りかかる。


「わからないけど…一緒にいるよ。約束。」


結衣は玲奈の髪を撫で、微笑む。


夜が深まる中、5人はそれぞれのベッドで眠りにつこうとした。


だが、彩花の脳裏には銃声とカメラの光が蘇る。


(助かった…でも…あの屈辱…全国に見られて…)


彼女は目を閉じるが、心臓がざわつく。


眠りに落ちた瞬間、悪夢が押し寄せる。


銃口、怒鳴り声、冷たい風。


「う…っ…!」


彩花はうめき声を上げ、目を開ける。


その時、ベッドが温かく湿っていることに気づく。


(あ…やだ…!)


彼女は毛布をめくり、シーツの濡れた跡を見る。


「…おねしょ…私…?」


彩花は顔を赤らめ、唇を噛む。


隣のベッドで、玲奈も目を覚ました。


「ん…何…?」


彼女は体を動かし、ベッドの湿り気に驚く。


「や…うそ…! 私…また…?」


玲奈は毛布を握りしめ、涙をこぼす。


「玲奈…? どうした…?」


結衣が目をこすり、玲奈の声に気づく。


だが、結衣自身もベッドの異変を感じる。


「え…私も…?」


彼女はシーツを確認し、顔を覆う。


「結衣…ごめん…私…怖くて…」


玲奈が嗚咽を漏らし、結衣の手を握る。


美咲のベッドからも小さな声が聞こえた。


「う…彩花…私…!」


美咲が毛布をめくり、濡れたシーツを見て泣き出す。


「美咲…! 大丈夫だよ…!」


彩花がベッドから降り、美咲を抱きしめる。


「彩花…私…悪夢見て…また…!」


美咲は彩花の胸に顔を埋め、震える。


真央は静かに目を覚まし、ベッドの湿り気に気づいた。


「…っ…私まで…」


彼女は無表情を保とうとするが、頬が赤らむ。


「真央…? 真央も…?」


結衣が真央に目をやり、静かに尋ねる。


「…言わないで。恥ずかしい。」


真央は視線を逸らし、毛布を引き上げる。


5人は互いのベッドを見回し、言葉を失った。


「みんな…同じ…?」


彩花が震える声で囁き、仲間を見渡す。


「あの夜の…せいだよね…怖かったから…」


玲奈が涙を拭い、膝を抱える。


「う…私…こんなの…初めてじゃないのに…」


美咲が嗚咽を漏らし、彩花にしがみつく。


「美咲、いいよ。誰も責めない。」


結衣が美咲の肩を撫で、優しく言う。


「…トラウマだ。仕方ない。」


真央が低く呟き、壁を見つめる。


朝が来ると、看護師が部屋を訪れた。


「みなさん、よく眠れましたか? シーツを替えましょうね。」


看護師の声は優しかったが、5人の顔は赤らむ。


「ご…ごめんなさい…汚しちゃって…」


彩花が恥ずかしそうに謝る。


「いいんですよ。ストレスが大きい夜でしたから。」


看護師は微笑むが、5人の胸は締め付けられる。


(病院の人に…知られた…)


玲奈は毛布を握りしめ、視線を落とす。


数日後、病院の静けさは破られた。


週刊誌「リアルタイム」が特集記事を掲載した。


「スターリット、解放後の衝撃! 病院で全員おねしょの夜」


見出しは扇情的で、記事は詳細に書かれていた。


「関係者によると、5人はトラウマから全員がベッドを濡らし…」


記事には生中継の写真やファンのコメントが添えられ、5人の羞恥を掘り返す。


彩花は病室のテレビでニュースを見た。


「…うそ…こんなことまで…?」


彼女はリモコンを握りしめ、顔を覆う。


「彩花…どうしよう…また…全国に…」


美咲が泣き声を漏らし、彩花の腕にしがみつく。


「美咲…ごめん…私が…もっと強く…」


彩花は涙をこぼし、美咲を抱きしめる。


「彩花のせいじゃないよ…あの夜が…」


玲奈が膝を抱え、震える声で言う。


「また…晒された…ファンは…どう思うんだろう…」


結衣が唇を噛み、窓の外を見つめる。


「…関係ない。ファンが何を思っても、私たちは私たちだ。」


真央が低く言い、仲間を見渡す。


病室の空気は重かった。


「彩花…私…もうステージに戻れないかも…」


玲奈が呟き、毛布に顔を埋める。


「玲奈、そんなこと言わないで。私たち、一緒だよ。」


彩花が玲奈の手を握り、目を合わせる。


「う…彩花…でも…恥ずかしくて…」


玲奈は涙をこぼすが、彩花の手に力を込める。


「美咲、顔を上げて。ファンはきっと待っててくれる。」


結衣が美咲の肩を叩き、微笑む。


「うん…結衣…ありがとう…」


美咲は頷き、涙を拭う。


「真央…私たち、負けないよね?」


彩花が真央に目をやり、震える声で尋ねる。


「…ああ。負けるわけない。」


真央は短く答え、仲間を見渡す。


テレビでは、週刊誌の報道が話題に上っていた。


「スターリットの試練は続く…ファンからは応援の声も…」


キャスターの声が響くが、5人はテレビを消した。


「彩花…これから…どうしよう…?」


美咲が震える声で尋ね、彩花の手を握る。


「一緒に考えるよ。美咲、玲奈、結衣、真央…私たちならできる。」


彩花は微笑み、仲間を見渡す。


「うん…彩花…ありがとう…」


玲奈が小さく頷き、微笑む。


「ファンの前で…また歌いたいよね。」


結衣が目を輝かせ、仲間を見渡す。


「…そのために、強くなるよ。」


真央が静かに言い、拳を握る。


病院の窓から朝日が差し込む。


屈辱の傷跡は深いが、5人の絆は揺るがない。


スターリットの物語は、まだ終わらない。














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