「――聴こえてる――ああ、――泣かせてしまった、かな――」

 短刀ひと振りとどうしたって非力な女の手では、勝ち目などなかった。分かっていた、分かっていたけれど。今この瞬間、あのうつくしく孤独な男がひとりで逝かないのならば、それでいいと思った。ただ一言、「いつか花を見よう」と。それだけが伝えられたから、きっともう、思い残すことなどなくて。

「――竜胆――どうして、何も聞こえない――っ」

(ああ――やっぱり、泣かせてしまったな)

 腹を、胸を、背を切られた。喉も切られていて、これではもうきっと、床下の鈴蘭に声は届かない。

「――すまん、な。鈴蘭。でも、ずっと、――あいして、」

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