第3話 一騎討ち


 牧場の一角で,マディとテッドがしゃがみ込んで話をしている。

「なぜおまえは銃を持ち歩かないんだ? いざという時、どうやって身を守るつもりなんだ?」

 そうテッドはマディに言った。

「テッド、実はオレは未来から来た人間なんだ」

「なんだって?」

「未来だよ、未来。オレがこのバイクに乗っていて事故を起こしそうになり、気がついたらこの西部へ来ていたんだ」

「なに? 一体何の話をしているんだ?」

「22世紀。そこからオレはやって来たんだ。おれは自分でも、それ以上説明のしようがないんだ」

テッドはさっぱり意味が理解できない。だが、こう言った。

「よし、分かった、未来人さんよ。あんたは銃もなしでどうやって戦うんだ?」

「……」

「いいか、あそこにでかい石ころがある。オレが早撃ちを見せるから,よく見ておけ」

「待て」

 とマディが言った。

「君が合図をしろ。どっちが早いか試してみよう」

「銃はどうするんだ?」

「オレの手の中にあるんだ。まあいいから」

「じゃあオレがこの石を上へ投げるから,地面に落ちた時が合図だ。いいな、いくぞ!」

 テッドは拳ほどの石を上へ向かって放り投げた。それが地面に落ちた瞬間、でかい石ころは音を立てて砕けた。

 テッドは……、いや、テッドはまだリボルバーに手をかけてもいなかった。まだ銃を握ってもいないのだ。なのに石が砕けた!

 テッドが恐る恐るマディを見ると、マディは涼しい顔で微笑んだ。

「どうやったんだ⁈」

 テッドが聞く。

「念と言って、オレの脳には特殊なチップが埋め込まれていて、そう思うだけでそうなるんだ」

「えー⁇ こりゃたまげた! おまえは本当に未来人なのか?」

「そういうことなんだよ、テッド」

 その時、ライアンの家の方から銃声が聞こえた。

 不穏な空気を感じた2人はすぐに馬とバイクでそちらの方へ向かって走った。


 ライアンの家へ着くと、銃で撃ち殺されたコリー犬を抱いて、ジェシーが泣いていた。

「どうした、ジェシー」

 とテッドがジェシーを抱き起こすと、

「今ジャックという背の高い人が来たの。マディを探していたわ。男なら,町のロス・アミーゴスっていうバーに来いって」

「ジャックか。テッド、ジェシーを頼む。オレはロス・アミーゴスへ行く」

 とうとう来たかとマディは思った。ジャックは早撃ちで有名なお尋ね者の殺し屋だ。相当な額の賞金もかかっている。しかし誰も彼に勝てるものはいない。

 マディはバイクにまたがると、町へ向かって120キロで走った。ひとつには、テッドが追って来れないようにするためでもあった。


 町へ着くと、「ロス・アミーゴス」はすぐに見つかった。

 用心しながら入り口から中へ入る。バーの一角に、ジャックが座っていた。

 マディはカウンターへ行き、コニャックを注文した。

「おまえさんがマディかい?」

 黒服に身を包んだジャックが、不気味に口を開いた。

「そういうおまえもどこかで見た顔だな,ジャックさんよ」

 2人は向き合っている。いつ始まってもおかしくなかった。

「おれは丸腰の人間でも平気で撃つんだ。分かってるだろう」

「犬だって撃つんだからな」

 次の瞬間、銃に手をかけようとしたジャックは、目の前のテーブルの上に倒れ込み,そのまま床の上で動かなくなった。


 終わった、とマディは思った。

 マディはその足で、隣村の代表者の家へ行き、これからも自由に泉を使ってかまわないこと、殺し屋をたった今片付けてきたこと、2度とこんなことはせずに隣の村どうし仲良くして欲しいことを伝えた。


 ライアンの家へ戻ると、ジェシーとテッドとライアンに自分が無事であることを伝えた。


 こうして2つの村に平和がやってきた。

 ジェシーは……テッドと間もなく入籍することになりそうだ。


(完)

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未来人マディの旅路(全3話) レネ @asamurakamei

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