決別

「ハァーー………」

 今日は最悪だ。もちろんあれの話を聞いたからだ。

 …………………………………………



 被害者は街を出たと考えられていた少女十三名。

 その中には、一度だけ話したラキュアもいた。

 …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………あぁ

















 コンコンコン

「ごめん下さい。」

「はぁーーい!あっコリュねぇちゃん!」

「こんにちは。」

「こんにちは!どーしたの?」

「今日からちょっと長い間家に帰らないから、挨拶に来たんだ。」

「…とおくいっちゃうの?」

「えーと……」

「ナッキャ、だめよぉ?お姉ちゃんを困らせちゃ。」

「でーもー」

「でもじゃないでしょ?」

 するとキナカさんがナッキャちゃんに耳打ちをすると嬉しそうに家の中に走っていった。

「コルテちゃん、何かあったの?」

「……まぁ、そんなところです。」

「……余計なお世話だと思うけど、無理は駄目よ?」

「あはは、そんな顔に見えました?」

「なんとなくね。」

「そうですか。」

 タッタッタッ!

「コリュねぇちゃん!これあげる!」

「これは……」

 それはとても綺麗な装飾が施されたブレスレットだった。

「それね!コリュねぇちゃんがくれた宝石で作ったの!」

 ナッキャちゃんの言葉を確かめるようにそのブレスレットを見つめると、親指の爪程の大きさのエメラルドの周りに私があげた小粒の宝石が嵌め込まれていた。渡した時はゴロゴロとしていたただの石ころだったのに、このブレスレットの宝石は艶も輝きも更に形まで違う。見るからに高度な技術を使ったのだろう。

「こ、これって!?」

「それね!パパと一緒に見つけた宝石なの!」

「え!?」

「あら、ごめんなさい。言ってなかったわね?私の夫は宝石の加工とかを生業にしててね。だからそういう伝手があるのよ。」

 なんと………

「ですが、このような高価なもの……」

「いらないの?」

「う!?」

 その悲しそうな目を止めてくれナッキャちゃん。

「貰ってあげて下さい。それに」

 そういうとナッキャちゃんの肩をちょんちょんと叩く。

「はっ!……おそろーーい!!」

 ナッキャちゃんが隠していた左手を私の前につきだす。そこには作りは同じだが、真ん中の宝石がトパーズで出来たブレスレットをつけていた。

「そっか……分かった。これは友達の証だね!」

「えへへ!」

「……それじゃ、私からも。」

 私はナッキャちゃんの額を人差し指で二回程叩く。

「なぁに?」

「また会えますよーにっていう、おまじないだよ。」

「ホント?ありがとー!」



「バイバーイ!またねーー!!」

「気を付けてねー!」

 二人の笑顔と優しさに満ちた声に、私は振り向くことも、手を振ることもしなかった。

 いや……する勇気が…………無かった。

















 ガヤガヤ……ザワザワ……

 いつも通りの喧騒が響くギルドに足を運んだ。

 ドルネスの受付は…いつも通り空いてるな。

「よお、ドルネス。」

「コルテか。お、どうしたんだ、そのブレスレット。」

「貰い物だ。触ったら誰だろうが殺す。」

「ハハハ、そんなに大事なものか。」

「そうさ。」

「それで?何の用だ?依頼の紙も持ってないし、まさか今になってギルドのルールを聞くわけでもあるまい?」

「私は……ギルドを抜ける。」

「……………は?

 お、お前自分が何言ってるのか!」

 ドルネスの大声に、周囲がこちらに視線を向ける。

「分かってる。その上でだ。」

「っ!………分かった。それは私の手には負えない。裏に来い。」

「そのつもりだ。」






 暫く待っていると、トマウさんがやって来た。

「ギルドを辞めたいと聞いたが。」

「そうだ。」

「ガザ、剣をしまいなさい。彼女はそういう人ではないと君も知ってるだろう?」

「……は。」

 ギルドでは前も言ったように五級に上がるために推薦が必要となる。これをクリアし昇級するということは信頼されてのこと。逆にこれを使って昔、トマウさんを暗殺しようとした人物がいたようだ。私のように五級に上がってすぐに辞めるといい、面会をして隙をつくために。

 まぁ、私もある意味、信頼をこちらから裏切ったことになるがね。

「理由は?」

「やっぱり…私には自由が一番だと考えましてね。」

「ふ、違うな。」

「……何故でしょうか。」

「私から見ると……君は変化等の流れよりも、今を楽しむための停滞を好む人物だ。違うかね?」

「………」

「どうせ、フィラントのことだろう?」

「っ!…………フゥ、バレてたか。」

「もちろんさ。これでもギルドを管理しているのでね。情報は逐一入ってくるのだよ。

 それと一つ言っておこう。フィラントは黒だ。だからもし、我々が向かう前にフィラントが死んでいたとしても、特に問題はない。既に彼の裏に誰がいるのかも掴んでいる。」

「良いのかい?」

「私は少なからず、このギルドメンバー諸君を友だと考えている。それは君も例外ではない。友の不利な状況など、無理無く揉み消してみせよう。つまりそういうことだ。」

 その割りには顔も見せないし貴族も大変だね。でもその気持ちは最高に嬉しいよ。

「そうかい。それじゃ、一段落ついて、色々と落ち着いたらまた来るよ。そしてまた五級にまで昇れたら…

………一緒に酒でも飲もうぜ、それも皆でな?それが友ってもんだろ?」

「そうか……抜けることにかわりはないのか。

 明後日の早朝には奴の拠点に着く手筈となっている。」

「あぁ、ありがとよ。」

 タイムリミットは約四十時間。

 さあ、枷を外そうか。



 私はトマウさんの前にカードと画鋲を置いた。

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