ー???ー


「そろそろ潮時だ。パライルに向かう。」

「お頭、そんなわ…ゴハ!?」

「お前が女を連れてくる時に騒いだせいだろ?

 分かってんのか?」

「ずびわぜん。」

「おい、そいつの口を塞いどけ。喋れないようにな。」

「へい!」

 

 確かにあの馬鹿の言う通り、ここまで早く気取られるとは思わなかった。だが、パライルに逃げさえすれば問題はない。

「金目のものと俺達についてのことは処分しろ!パライルにさえ入れれば一生遊べるぞ!」

 俺の言葉に士気を上げた阿保どもは下卑た笑みを浮かべながら行動を始める。

 本当に馬鹿な奴程うまい話にすぐ食いつく。魚ですらもう少し餌の確認をするのにな?お前らにそんな待遇があるわけないがな。


「お頭、準備出来ました。」

「まぁ、及第点だな。行くぞ…」




「どこに行くってぇ!?」

「誰だ!?」

 もう来たのか!?いや情報が間違ってる筈が……

「は?」

 そこにいたのはヨボヨボの爺さんだった。

「すみませんねぇ、耳が遠くて………」

 マジで誰だ!?

「おいお前ら、このジジイを知ってるやつは?」

 しかし、この場の全員が顔を横に振る。

「すみません、お話が聞こえなくて……肩を貸して貰っても?」

「え?お…おう。」

 その爺さんは近くの阿保に肩を借りて、俺の方までゆっくりと歩いてきた。

「俺がそっちに…」

「いえいえ、あなた様はさぞ名のある方なのでしょう?そんな方を態々来させるわけには参りません。」

「ほぅ……良い心掛けだ。」

 そんなわけでもなくはないが、言われて悪い気はしないな。

 しかし、爺さんは何でこんなところにいるんだ?それに肩を借りてるにも関わらず、他のやつらにも随時触れている………

 爺さんが俺の前に来た。

「おっと……」

 っ!爺さんが俺の方に倒れ込む。

 俺は嫌な予感を信じ、爺さんを避けるように半歩横にずれる。

 すると爺さんは倒れずに、前傾姿勢で止まる。

「そこまで鈍ってはないか………」

「貴様は何だ!」

 俺は腰の剣をジジイに向ける。

「ハァー全く。年寄りを労らんか。」

 そう言って、姿勢を整えたジジイが一度手を叩くとジジイに触れられた…つまり俺以外が突然倒れ込んだ。おそらく全員死んでるだろう。声も出さなかったから即死もありえる。絡繰が分からねぇ。

 まぁ、パライルに行っても阿保どもは奴隷として安く売る予定だったし、そんな端金に興味は無い。それよりも目の前のジジイの対処が先だな。

「早急に殺す。」

「ホッホッホ、忘れておったわい。お主にはこっちの方が…………馴染み深いよな?フィラント。」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「コルテ………」

「嬉しいよ、お前の裏を見れて。あの気色悪い笑顔よりも、その人相の悪い顰めっ面の方が似合ってるぜ?最初からそっちの顔だったら仲良くなれたかもな?」

「さっきの爺さんや、触れただけで殺したのはお前の魔法か?でも……………まぁ、そんなものはどうでもいい。

お前がさっさと俺に靡いてくれてたら俺だって他の女を拐わないですぐにパライルに帰れたんだがな。」

「へぇー、最初から私狙いだって?」

「そうさ、雇い主の好みがお前とドンピシャだったんだよ。他の扱いやすい女で我慢してもらってたんだが、期限が来たのさ。でも、これなら雇い主も喜んでくれるだろう。」

 だから新人の頃によく絡んできたのか。正直、話す度に好感度は下がったがな。

「そうかい……私も本気でいかせてもらおうか。」

「所詮五級のお前が三級の俺に勝てるとでも?」

 お互い、自分の得物を構える。

「ふ、図に乗るなよ?クソガキ。」

「年下だろ?」

「ハ!気にするな、戯言さ。

 我は【質実演舞】のコルテ、いざ尋常に!」

「乗ってやるよ、俺は優しいからよぉ?

 俺は【絢爛剣舞】のフィラント、惚れるなよ?」




 

 お互い間合いを読む。

 コルテは後ろ、フィラントは前に。

 痺れを切らしたのはフィラントだった。

 たったの数歩でコルテの目の前に近付くと、逆袈裟斬りを放つ。

 コルテは若干苦しい顔をしながらも、右前半身構えから槍を時計回りに動かし、剣尖を受け流すようにずらす。

 受け流されたフィラントは前傾姿勢のまま、足に力を込める。

 コルテは受け流した動作から身体を回転させてフィラントの背中目掛けて槍を振り下ろす。

 槍が当たる寸前で、フィラントは片足だけで飛び上がる魚のように、華麗な跳躍をした。そして、空中から回転しながらの落下を利用して剣を振り下ろす。光を纏わせて。

 コルテは突然現れた発光体を纏いの長剣だと判断すると、空を切る剣の音を聞き分けて、大上段の構えを見せる。

 フィラントはコルテの構えを確認すると、激流の如く剣尖を左右に動かし、コルテの判断を鈍らせようとする。

 コルテは渋い顔をしながらも、何も聞き逃すまいと呼吸を小さくする。

 フィラントが動く寸前でコルテが左に動いた。

 フィラントは勝ちを確信しながら、剣を右に滑らせて、コルテの腕を狙って剣を振る。

 斬った!……そう思った瞬間、カツッ!と乾いた音がする。

 見ると、剣が腕に届く僅か数ミリの所で障壁魔法が展開されていた。

 驚愕の色を浮かべたフィラントの顔を見て、コルテは悪戯っ子の様に白い歯を剥き出しにしながら、フィラントの首に一突き。

 驚愕に染まった脳内を一瞬で切り替え、コルテの突きを剣身で受け止めながら、その勢いを利用して間合いを作る。

 その結果、お互い最初の位置へと戻った。


「やるねぇ、コルテちゃ~ん。やっぱりその動き、とても綺麗だ。」

「口説くならもっと魅力をつけてから出直しな。」

「酷いよぉ~。ならもっと僕の躍りを魅せてあげるね!」



 フィラントは先程よりも速く動き、今度はジグザグに走りながら、コルテの左肩を狙った右薙を放つ。

 しかし、コルテはすぐさま腰を捻るように左膝を曲げ、左手を地面に着けた体勢で槍は半円を描くようにフィラントの首に向かう。

 

 しかし、その槍を腕で防御をするように受けると、流れるような動きで槍に腕を絡ませる。

 

「つ~かま~えた!」

「フン。」

 フィラントに槍を掴まれたコルテは、槍を自身の方に引き込むように手放すと、地面に着けた左手を軸に蹴り技を繰り出し、側転で距離をとった。


「……やるねぇ。」

 蹴られた胸板を指で拭うように砂埃を払う。

「"霧暗 黒"」

 コルテはフィラントのことなど意にも介さず、闇魔法を放つ。

 フィラントはこの時油断をしていた。彼が知っている彼女の闇魔法は最低級。同じ仕事を合同でやったことはないが、情報としては知っていた。

 ……だからこそ彼女は笑う。私の勝ちだと。




 フィラントはこの程度の霧と高を括っていたが、すぐに気付く。視界を塗り潰す程の黒を。

 フィラントはコルテから奪った槍を足で踏みつけ、中腰になりながら剣を構える。剣を持たない左手は大きく開き、空気の揺れを感じようとしていた。


 その時、左側から光が出て、そちらに目を向ける。

 刹那、後ろに殺気を感じて剣を振るうとナイフが地面に落ちる。

 防げた安堵からか一瞬、気を抜いてしまった。

 

 再び光が現れると、また後ろに何かを感じ、剣を振り向きながら操る。

 それは拳大の石だった。それにより、もう刃物が無いことと、これなら問題なく防げるという思い上がりが生まれた。

 

 それは目にも止まらぬ速業。

 フィラントの態度を確認したコルテは風魔法で自身の小柄な体躯を浮かし、音も無く転がっているナイフを掴むと、フィラントの首を掻き切る。

 フィラントには、首に僅かな痛みを感じた瞬間に、耳にコルテの活性という言葉が聞こえた。


 ドシャッ!と首が地面に落ちる音が響く。

「流石だよ。私に実力以外で勝たせるなんて。」

 コルテがフッと息を吐くと、闇魔法は跡形もなく霧散した。


 



 死体をまとめて、あたかも賊にやられたかのように見せかけた。

 全く苦労するよ。

「さて、帰ろう。また戻って来れると信じて。」

 私は頭に着けていた簪を地面に突き立てる。

 それにより開いたゲートをくぐり、私はこの国を後にした。

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