光と闇

 気付いたら季節は夏真っ盛り。この時期はキュウリの成長が早く、一日でも忘れると伸びすぎてしまい、腰に差したらバランスが悪くて落ちてしまう。そのためこの時期はギルドの依頼を休みがちにして収穫に専念している。

 家庭菜園とは言っても、規模はそれなりにあるからな。


「とれたー!」

「おー良いねぇ、ナッキャちゃん。」

 現在ナッキャちゃんとキュウリの収穫をしている。

ホントに良い子だよ。

「ナッキャちゃんはキュウリ好き?」

「ん~~~ふつう!」

「そっかー普通かー。」

 可愛いねぇ。太陽光をも跳ね返す笑顔。

 ……駄目だな、こんなこと考えてたら変態呼ばわりされてしまう。

「それじゃ戻ろうか。」

「ん~?全部とったぁ?」

 ナッキャちゃんがキュウリの株を下から覗き込むように見る。

「それはまた明日収穫するんだよ。」

「そーなのー?」

「そーだよー?」

「ふふふ、まねっこー!」

「ふふ。さぁ、戻ろう。」

「うん!」

 笑顔のナッキャちゃんと手を繋ぐ。後はキュウリの選別を手伝ってもらおう。





「これは……こっち!」

「そうそう、ありがとうね。助かったよ。」

「えへへ!」

 あぁ、可愛いなぁ。お駄賃か何かあげたいが、良いものは……………………あ!

「ナッキャちゃん、お手伝いのお礼。」

 私は小さな革袋をナッキャちゃんの手のひらの上にのせた。

「なぁにこれ?」

「開けてみて。」

「うわぁ!キレー!」

 中にはこの前の……鉄亀からとれた小粒宝石だ。ナッキャちゃんは賢いから食べるなんてしないだろうし、女の子はこういうのが好きだろう。ラジェンドから買っといて良かった。

「良いの!?」

「良いよ。」

「やったぁ!!ママに見せてくる!」

 そのまま飛び出すように駆け出した。

 本当に…眩しい子だ。












「あっつ……」

 あれから数日が過ぎ、現在はドアが開け放たれてもなお、熱気が篭るギルド内でキュウリを噛りながらギルドメンバー達を眺めていた。

「あっちぃ~~」

 シャクッ、パリパリ………

「あ~~~~」

「………」

「あ~~~~」

「………ラフィリア…何してんの?」

「あ~~~~きゅーけ~いで~す。」

 なんとなくひんやりしている木質テーブルに顔と腕をだらりとくっつけている。

 こんなぐにゃぐにゃなラフィリアは初めて見たよ。

「キュウリ食べる?」

「あーー」

 聞いてみると、顔を上げて口を開けている。

「えぇ?食わせろって?」

「あーー」

 駄々っ子か………ま、ラフィリアにもこういう時はあるわな。

「……ほい。」

 シャクッ。

「おいしーれすねぇ………」


 ………どうしたんだ?こいつ。







「本当に、申し訳ありませんでした!」

 キュウリを三本食べた後、急に立ち上がったと思ったらこんな状況になってしまった。

「別に良いって言ってるじゃん。ラフィリアは美味しそうに食べてくれたから大丈夫だよ。」

「し、失礼しました!」

 何かを思い出したのか、顔を赤くして受付に戻っていった。

 ペットみたいだったなぁ。









「コルテさん、今良いでしょうか?」

 話しかけてきたのはアンケイドとワズだ。最近よく一緒にいるっぽい。

「ん?おぉ、座りな。」

「では失礼します。」

「僕も失礼して。」


「二人ともさっきのこと見た?」

「「……はい。」」

「そっか、黙っててあげてね?ちょっと気にしてるみたいだし。」

 ギルドの噂なんて尾ひれがついてろくなことにならないからな。

「もちろんです。いつもお世話になってますし。」

「だねぇ。でもあの可愛さは、僕には出せないなぁ。ちょっと悔しいね。」

 ワズ………お前は一体何を目指してるんだ?


「あの……今から話すのは内密でお願いします。」

 む、二人とも沈痛な面持ち、真剣な話だね。


「コルテさんはフィラントさんを…………知ってるみたいですね。」

 おっと顔に出ていたみたいだ。

 あれの名前を聞くだけで嫌悪感で吐きそうになる。

「すまん。で、あれがどうしたんだ?」

「前から良からぬ噂が流れてるってのは知っていたんですが………」

「どうした?」

 アンケイドが押し黙ってしまった。

「すみません、続きは僕から。

 この前やっとナラクの罠講習が終わったのでアンケイドと一緒に未開拓調査の依頼を受けたんです……




「ごめんなアンケイド。報告書の内容頼んじゃって。」

「構わないよ、見張りをしてくれてるんだもの。それに、一緒に来てくれたお陰で役割が減ってだいぶ楽になったからね。」

「ふふん、僕はこういうのが得意だからね。僕達良い相棒になれそうじゃないか?」

「……良いのかい?」

「もちろんだ…………



「待て待て待て、お前らのイチャイチャなんてどうでもいいんだよ。問題の話をしろ。」

「これは失礼。では………




「っ!……なぁワズ……」

「しっ!足音だ。それも複数。」


 ザ、ザ、ザ、ザ、ザ、ザ、ザ、ザ、ザ、ザ、ザ、ザ


「よし、遠ざかってるな。」

「問題はな……」


「んんーーー!!んん!!!んんん!!!」

「このアマ、うるせえよ!」

「おめぇもうるせえよ馬鹿!」

「んんんんー!!!ぶは!てめぇら誰だ!おい!

 フィラント!どこ行った!フィラントォ!」

「黙れや!」

「が!?」

「おいおい殺すなよ。」

「へへへ、もう何回目だと思ってんだ?

 さっさと行こうぜ。」

「お前が仕切るな。今の声を誰かに聞かれたかもしれん。さっさと行くぞ。」








………てなわけよ。」

 ……………………………チッ

「つまりフィラントが人攫いに関与していると?」

「そうです。ギルドにも報告しました。

 ね、アンケイド。」

「あ、うん。報告はシュトラウゼン様に直接行いました。シュトラウゼン様も前から噂程度で聞いてはいたが今回の件で本腰をいれるべきかもしれない、と言っていました。」

 

 最悪の気分だ。

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