芽吹きと稼ぎ

 本格的な寒さも大分引いてきて、春の芽吹きが始まった。冬は魔物が冬眠をしたり、開拓にも奥手になるため、ギルドメンバー達は稼いだ金を切り崩しながら生活をしている物もいれば、金を使いきって、悴んだ手に白い息を吹き掛けながらも開拓を進めるやつもいる。それで命を落とすやつもいなくはないが、そんな馬鹿にしている心配を残念ながら私は持ち合わせてはいないがね。




 さてさて、春になると鳥の魔物が多くなる。本来の鳥ならそのまま越冬をするか、暖かい東邦に向かうのだが、この付近に生息する鳥の魔物は逆に、北西の氷の大地と呼ばれる場所に向かう。理由は詳しく知らないが、ギルドの推測によると極限まで寒さと飢餓に耐えるためとか。身体を人の掌に乗る程のサイズにまで小さくし、春になると人の民間に侵入してからその屋根裏に巣を作り、段々と身体を大きくする。その後、その家の人々を食い荒らして更なる力と丈夫な身体を得ると、産まれた森に戻り番を探す。そして産まれた子と共にまた北西に向かう。これの繰り返し………ってどうでも良いか、こんなの。



 というわけで、現在ザンドでは街ぐるみのクソ鳥狩りである。この鳥は身体を小さくする事と飛ぶ速度を上げる代わりにとても大人しくなる。北西でじっと耐え抜くからとかなんとか。だからこの鳥は子どもでも捕まえられる可能性がある魔物としても有名だ。


「コリュねぇちゃん!この子みつけたぁ!!」

 現在、私と私の隣に住んでいるファッタム一家と合同でクソ鳥を集めている。クソ鳥は性質上、同じ場所から移動したクソ鳥達で欠けることなく群れとして移動し、行動も合わせるようにするため、一日かけて見つけ出せばもうその家にクソ鳥は一年間いないことになる。では何故クソ鳥がいるのかというと魔物という意味もあるが、空き家に住み着く場合もある。まぁ、空き家の場合、食べるべき人がいないため周囲を飛行するというね、めんどくさーいのだよ。新人は喜んでその仕事を受けてるけどね。その頃にはそれなりの大きさになるため新人でも討伐をすることが出来るぐらいらしい。

「コリュねぇちゃん、ねむい?」

「あ、ごめんよ。考え事をちょっとね。見つけられて偉いね。」

 先程から可愛く私の顔を覗き込んでいたのは、隣家の長女、ナッキャちゃんです。現在六才、育ち盛りの食べ盛り。なんでも興味を持つ頃合いだね。

「この子どうするのぉー?」

「んーー、ギルドって所に持っていって買い取って貰うんだよ。」

「おかね?」

「そうそう、よく分かったね。」

「お買いものならしたことあるんだよぉ?」

「おーやるねぇ、後はこの鳥を料理して食べるかだね。」

「へぇーー…………」

 小さい子にはちと残酷…

「おいしいの!?」

 うーん。逞しいねぇ。目をキラキラさせてる。というかちょっと唾液が垂れてる。

「今のままだと美味しくないよ。お母さんにその子をどうするか聞いてみな。」

「わかったぁーー!!」

 元気よくナッキャちゃんは駆け出していった。

 気持ちいいくらい元気だねぇ。ホントに。










「おっ?お前も来たのかコルテ。」

 ファッタム家と我が家の分のクソ鳥を袋に詰め込んでギルドの戸を開けた目の前いたのは大量の唾を飛ばしながら笑顔を浮かべるクソジジイ。いやマイバル。

「………ちっ、どけよマイバル。」

 私は顔についた馬鹿の唾を服の袖で拭き取る。

 ちょっと臭いのがさらにムカつく。

「いーじゃねーか!一緒に話ながら並ぼうぜ?」

 マイバルは親指でちょいちょい、とラフィリアがいる受付を指す。

 そしてその横を見ると誰も並ばず目付きをさらに悪くしたドルネス。最近冬が終わったことでギルドメンバーも増えてきたし受付係を増やすべきだと思うんだけどねぇ。

「悪いが、私はドルネスの所に行くさ。

 お前もドルネスの所にしとけよ。」

「嫌だよ、あのネーちゃん怖いもん。」

「……………」

「何黙ってンだよ。」

「キッモ。」

 私は直行でドルネスの受付に向かった。

 だって、あのクソジジイの言動がキモすぎたからな。あぁー寒気がするぜ……鳥肌も出やがった。


「おーいドルネス。頼むわぁ。」

「あっ?あぁ、コルテか。任せな。」

 人を殺す程のオーラを出していたドルネスは以外といつも通りで、淡々と仕事をこなしている。

「何を怒ってたんだ?」

「あぁ、この時期はピーピー、ピーピーうるさいからちょっとな。」

「ハハ、確かに。

 おっ後ろにいるのガザじゃん。」

 ドルネスが袋から鳥を取り出し、後ろのギルド職員のガザが詳しい確認作業をしていた。

「あぁ…久し振り…………。」

 無口だねぇ。

「よしよし、確認したぞ。

 ………えっと……ガザ?」

「………ホワイトスケールバード。」

「ホワイトスケールバードが五体。金貨五枚だ。」

 私も人のことは言えないが、ギルド職員が正式名称を覚えていないのはどうなのだろうか。

「はいよ、あんがとさん。」

 私は金貨を受け取り足早に家に戻る。どっかの馬鹿に絡まれたくないしね。

 それに、今日はファッタム家にお邪魔して、ナッキャちゃんとナッキャちゃんのお母さんのキナカさんの手作り料理をご馳走になる予定だ。

 久しく鼻唄を奏でながら帰路に就いた。










 コンコンコン

「いらっしゃーい!」

「お邪魔しますよー」

 隣家の戸を叩くと、元気溌剌な声の主が満面の笑みで出迎えてくれた。

「こんばんは、ナッキャちゃん。」

「あっこんばんはー。入って入って!」

 ナッキャちゃんは急かすように私の手を引いて家の中へと私を導く。

「コルテちゃんいらっしゃい。座っちゃってていいわよ。」

 台所で料理中のキナカさんがこちらを振り向いた。

「はい、分かりました。」

「コリュねぇちゃんここね?」

 ナッキャちゃんがここだ!と言わんばかりに自分の隣の椅子を手でポンポン叩いていた。

「失礼。」

「あぁ、ようこそ。」

 ナッキャちゃんに指定された椅子に腰掛け、向かいに座っていたナッキャちゃんのお父さんのナセラルさんに挨拶をした。

「ナセラルさん、こちら鳥三体分です。」

 忘れないように、懐からファッタム家の取り分を置いた。

「確か、一体で金貨一枚でしたよね?」

「はい、そうですが?」

 あれ?なんか考え込まれているが……もしや数を間違えてしまったか?

「コルテちゃん、一枚は私から報酬として受け取ってほしい。」

 そう言うと、金貨三枚の内の一枚を私の目の前に置いた。

「ですが……」

「良いんだよ、それにこれからもお世話になるかもしれないからね。」

 私の懸念を取り除くようにとナセラルさんはナッキャちゃんの方にチラリと目を向けた。

「んーしかし…」

「良いのよ、受け取って。

 それにこの鳥の調理方法の代金でもあるからね!

 さあさあ、そんなの片付けてぇー!」

 大皿を抱えたキナカさんが遠回しに金貨を邪魔と切り捨て、私とナセラルさんは急いで金貨を仕舞った。

 ここまで来ると渋るのも申し訳ないため、ありがたく受け取っておこう。



 ちなみに、この鳥は弾力のある肉がついた雀のような味であり、成長し身体を大きくする程、大味となっていく。

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