癒し

 お、ありゃワズと…ナラク…だっけか?ギルドメンバー歴十年で未だに八級の罠師のはずだ。確かに防御が硬いワズと組むなら相性は良いが、決定力に欠ける。ワズもナラクも装備を整えてるし、外に出るのだろうが二人で大丈夫だろうか。



 久し振りのアンケイドは…早い。依頼の内容を全て見て直ぐ様自分に合うものを選び、受付に持っていった。

 熟れてるなぁ。





「待たせたなコルテ。調子はどうだ?」

 日が沈み辺りが暗くなってきた頃、私服に着替えたドルネスがやってきた。服の色がほぼ黒統一。

 まるで思春期の息子を見ているようだよ。

「良いに決まってるだろう。まだ見ぬ愛らしい姿に想いを馳せながら、むさ苦しい男共を見ているのは。」

「それは本当に良いのか?ていうか、お前は恋する乙女か?」

「ふふふ、私は子どもを見るのが好きなのさ。

 怪我をさせるのが怖くて触れないがな!」

 私の主張にドルネスは腕を組む。

「その気持ち……分かる!」

 やはり同志だったか…。




 ギルドを出て、ドルネスの家に向かっている間も二人で子どもの話で盛り上がっていた。

「やっぱり子どもは自由でやんちゃな方が見ていて気持ちが良いと思うんだが?」

「だがねぇ、怪我しても困るし、他の人に迷惑かけるのはちょっと。」

「何言ってんのさ、子どもは怪我して強くなんのさ。それに子どもは宝だ、子どもの行儀を本気で怒るような奴と付き合わないほうが良い。」

「過激なやつだなぁ。

 ……………まぁでも、毎回毎回頭下げるのも面倒そうだし、それもありか。」

 私の言葉に納得してしまったな。将来、問題にならないと良いが…。

「大丈夫か?私の場合は小さな村だったし子どもは皆で育てるって感じだったからこうゆう考えなんだが。」

 村と違ってザンドは開拓地の最前線だけあって人の往来も多く、その分人付き合いが大変だ。態々問題を起こしかねないことをしないでほしいが…

「大丈夫さ、なんかあったら街出るし……そうだ!お前の村に行くのもありだな。」

 おっと…それはまずいな。

 私の前の姿とドルネスが知ってる私の姿は違いすぎるし……

「ま、まぁ何かあったらだろ?」

「ふっ、当たり前だ。仕事放って出ていく程、恩知らずじゃないからな。」

 セーフ!

「あれ?そういえば聞いてなかったけど男の子か?それとも女の子?」

「女の子。」

 ………問題は起き…無くはないか?








「ここだ。」

 しばらく世間話をしていたらドルネスが指を指す。

 そこはザンドでは一般的な大きさよりもやや大きい家だ。多少は儲かってるのかもね。

「帰ったよ!」

 ドルネスは家の戸を豪快に開けて、大声を上げる。

 家の中にはドルネスと同世代の、おそらく夫と奥で椅子に腰掛けてるのがドルネスの母親だろう。

「おかえり、そちらは?」

「おう、昨日話したコルテだ。」

 昨日話した?何を?

「そういえば泊まるとか何とか言ってたね。

 ようこそ、俺はザッパード。ドルネスの夫だよ。」

「よろしくな、コルテだ。」

 私はザッパードと握手をする。

 かなり筋肉があるし、元ギルドメンバーとか力仕事をやってるのかね。

 ていうかドルネスのやつ、約束もしてないのに泊まるとか言ってたのかよ。まぁ、一日くらいなら良いけど。

「さあ、中に入りな。」

「お邪魔するわー。」

「おう。」

 文字だけだと、どっちが男か分かんねぇな。


「いらっしゃいコルテちゃん。話は聞いているよ。

 私はネスト、ドルネスの母親だよ。よろしくね。」

 わお、穏やか。ホントにこの人からあれが産まれたのか。人の神秘か、父親か………後者かな。








「ドルードは?」

「寝室で寝てるよ。今から見せるのかい?」

「当たり前だ。コルテに私の可愛い赤ちゃんを見せてやらねぇとな。」

 私はドルネスに連れられて奥の部屋に向かう。

 女の子って言ってたよな?女の子でドルード?

 まぁ…いいか。


「ほら、ここで寝てるのが我が家の赤ちゃんドルードだ。」

 ドルードが寝ているためドルネスが小声で話す。

 ドルードはすぅすぅ、と寝息を立てていて、見てるだけでも穏やかな気分になる。

「可愛いなぁ。」

「可愛いな。」

「あー、ずっと見ていたい。」

「だったら受付辞めて子育てに専念すれば?」

 すると、ドルネスは赤ちゃんの眠るベッドに顔を埋めて、溜め息を一つ。

「それじゃ駄目なんだよ。受付の仕事は一応、国に属した仕事だから簡単に辞められても復帰は出来ないかもしれねぇ。でもザッパードのあの力はどこの仕事でも腐らねぇから今は私が稼がないと。

 それに言っただろ?私に子守は難しいって。」

 ドルネスは少し悲しそうな顔をしていた。

 ストレスが溜まらないようにフォローぐらいはしてやるか。出来るかは別だが……

「そうか…そろそろ戻ろう。ドルードも私達二人に囲まれて可哀想だ。」

「……確かに。」

 先程の顔は何処へやら、私の軽口に笑顔で頷くドルネスだった。

 



 夜は、ネストさんが作ってくれた料理をご馳走になった。流石に泊まるのは忍びなかったため遠慮しておいたが、それでも中々充実した日だった。

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