全てを糧に
「はいはい、確認と。お疲れさん。」
いつも通りラフィリアの列は大行列だったため、ドルネスの受付に来た。仕事達成の報告とともに紙を二枚渡される。
そろそろ季節も秋のようになってきた。
魔物は冬眠のために活発になりよく肥えるため、ギルドメンバー達の稼ぎ時でもあり、今日はクライムベアを三体程討伐した。
クライムベアとは全身が黒く、三メートルはある。秋になるとギルドメンバーの夜営中に荷物を狙い、取り返しに来たところを群れで誘き寄せて襲う魔物だ。
そして、使った荷物は食料を抜いて、また誘き寄せるために置いておく等かなり知恵がある。
新人がよく被害に遭うため秋口に討伐するのだが、次の年には前と同じくらい生息している。他の魔物も似た感じのため、魔物は生殖以外でも繁殖しているのでは?と議論されてるとかなんとか。
「コルテさん、お疲れ様です。
こちらが分配金です。」
銀貨八枚か…少し切り傷が多く、状態が悪かったし妥当だな。
今回の熊討伐はライトローとゴルトンの合わせて三人で組んだ。新人の二人に指導がてらの能力調査だ。
ギルドとしては個人の詮索はしないが、ある程度の力量や性格は知りたいようで、六級以上になるとちょくちょくそういう仕事が振られる。
前述の通り、この時季は熊の討伐が増えるため肉や毛皮は安く買い取られるせいで、新人からは不評気味だが、熊がどれだけ危険かはだんだんと分かるだろう。
「コ、コルテさん!今日の俺、どうでしたか?」
ライトローが食い気味に戦闘の動きを尋ねてきた。これくらいの年の子は自分の実力とかそういうのに興味津々なのはよく分かる。
孫を見ているようで可愛い。
「落ち着きな、ライトロー。
それよりほら。毛皮の討伐証明は終わったからこれも二人で売ってこい。どこに売るかは自由だ。もちろんその金は二人で分配しなさい。」
「良いんですか?」
ゴルトンは訝しげに尋ねる。
「君たち二人がその三枚の毛皮でどれだけ稼げるか…お手並み拝見というわけさ。」
「なるほど、分かりました。」
「分かったぜ!」
二人は議論をするようにギルドから出ていった。
さてさて、二人の報告書を…と。
一枚目
ライトロー・モズ
戦闘
・直情的な動きの我流片手剣
・魔法は最低限の光魔法のみ
・声を上げ、自身を奮い起たせる
➡️隠密には不向き
・瞬発力はあるが洞察力は無い
・手数の多い攻撃には弱い
・力任せで攻めるのが得意
➡️逆に防御には手こずっている
・戦闘前に磐石な策を練るが、咄嗟の判断に弱い
・体力は人並み
・力は七級並
性格
・剣と同じく直情的で素直
・よく笑い、よく食べる
・モズ商会の四男坊で礼儀や作法は一通り会得しているが、使うのは苦手な様子
・ゴルトンの証言では女性に惚れやすいらしい
・問題を起こす可能性はそれなりと見られる
二枚目
ゴルトン・ムサルド
戦闘
・魔法と約五十センチの短槍を扱う
・慎重で堅実的
・火と風の魔法で他メンバーのサポートが中心
・魔物を誘き寄せたり自分達にとって有利な地形を見極めることに長けている
・咄嗟の判断は早い
・魔物との戦闘や解体にはまだ慣れていない
・体力も力も平均値かそれ以下
性格
・人と関わろうとせず馬耳東風の態度が散見される
・会話をするようになっても笑顔は見られていない
・ライトローを諌めたりと人との関わりが嫌いなわけではなく、疑り深い可能性がある
・なお同い年の彼女の話では優しい笑顔を浮かべる
・人付き合いで少々難あり
ふう……
今のところはこんな感じかな。
おっと…帰ってきた。隠さないと。
「コルテさん!どーよ!」
「中々良い交渉が出来たと思います。」
二人はテーブルイスに座り、テーブルの上に金貨四枚を置いた。
「相場は確か毛皮一枚で金貨一枚だった筈ですから良いのではないかと。」
「どうだ!?コルテさん!」
私は二人が持ってきた金貨を色々な角度から見つめる。
あぁーーこれはぁ………
「二人とも………」
二人が唾を飲み込む。
「残念だ。」
二人とも引っ掛かったな。
「なんで!?」
「何故でしょうか?」
「まず、この金貨は悪銭だ。
見た感じ、これ四枚で金貨二枚と銀貨五枚といった所だな。」
「そんな…」
「待ってくれ!コルテさん!
見てくれ!どう見ても悪銭じゃないぞ!?」
ゴルトンは反省するように私の言葉を待っているが、ライトローは納得出来ないようで悪銭金貨を一枚掴んで見せてきた。
「まぁまぁ、落ち着けライトロー。
見てな。」
私はライトローを宥めて悪銭金貨を掌の上にのせて二人に見えるようにする。
二人が覗き込む中、私は悪銭金貨を裏返す。
「"水"」
指先を水で濡らし、悪銭金貨を擦る。
するとだんだんと私の指先の水に色が付き、その金貨がどうして悪銭なのかが露になった。
「な?この金貨は傷付いてデコボコになっている所に金貨と似た色の塗料を塗ってそのデコボコを隠したのさ。」
「なるほど。」
「マジか!?クソ!文句言ってくる!」
「やめとけ。」
ライトローが地団駄を踏んで歩き出すのを止める。
「どうして!…ですか?」
「言ってもシラを切られるだけさ。
それに今回の毛皮は、肉同様状態が良くなかった。
持っていったのはクザンってやつの所だろ?あいつは悪戯好きだし、良いじゃないか、勉強料だと思えばさ。」
それにあの毛皮で金貨二枚と銀貨五枚なら赤字の筈だが…クザンのやつ、どうやら二人のことを気に入ったみたいだ。あの時は悪かった!みたいなノリで品物を安くするのはクザンが気に入ったやつによくやるのだ。私はされたこと無いがな!
「ぐうぅぅ!悔しいぃ!」
「どうして気付いたんですか?」
「金貨は本当の金じゃないが金属ではある。だから光に当てれば輝きが違うと見分けられるのさ。」
「勉強になります。」
「うぅ~。マジかぁー」
「この方法は昔流行ったんだが、二人が新人だと見込んで仕掛けてきたんだろう。ギルドの受付に行けば悪銭を両替してくれるから行ってきな。
それと頑張った褒美だ、これで酒でも飲んどけ。」
私は褒めるのを忘れない。二人に銀貨を一枚ずつ手渡した。
「コ、コルテさん!今日!いっ、一緒に飲みませんか!?」
むぅ、まぁ色々話したいが…
「すまんなライトロー。私にはまだやることがあるから。」
「そ、そんなぁ。」
「ほら、行くぞライトロー。
コルテさん、今日はありがとうございました。」
「あ!ありがとうございました!」
ゴルトンとライトローがお辞儀をし、受付へと向かう。二人の成長が楽しみだ……
空いてるドルネスじゃなくて並ぶラフィリアの方に行ったのを除けば…だがな。
「ドルネス、ほら。資料。」
「おう、サンキューな。
…………ほいほい、確認と。」
二枚の紙に確認の判子を押す。
「ほぼ流し読みじゃないか。」
「良いんだよ、見るのは上司だし。
はい、報酬。」
二人分の情報、金貨二枚が渡された。
これは良質金貨だから安心しなよ?
「そうだ、コルテ。今日家に来ないか?
赤ちゃん見せてやるよ。」
「おっ、マジか。うーん、まぁいいか、行くわ。」
「何を悩んでたんだ?無理には来なくて良いぞ?」
「大丈夫だって、問題ないさ。」
キュウリには朝、水をあげたしもう暑くないから水切れは起こさないだろう。多分。
赤ちゃん…それも友人のなんていつぶりだろうか…
今から楽しみだ…
「あ、キュウリ食うなよ?手が臭くなるから。
それと一応手も洗って…て、そっかお前水魔法使えるのか。じゃあこのタオル貸すから。」
おっと、これは手厳しい。暇な間キュウリを噛りながらダラダラしたかったのに。仕方ない、手持ち無沙汰だが、それもまた一興か。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます