小さな輝き

「へぇー、で、亀の宝石とかは?」

 その後ギルドに戻り、ドルネスに報告をした。

「マイバルが砕きはしたが、ちゃんと持ってきている。」

 ラジェンドは嬉しそうに笑顔を浮かべたまま私に促すように見る。

 私は亀の死体を包んでいた風呂敷を背中から下ろし、その中身を見せる。

「ん、問題なし。宝石は向こうさんとの交渉次第だし。金属の肉は…これか?」

 鈍い光を放つ物を指差した。

「そうだよ。」

 私が指を動かし、革の手袋でそれをつつくと、カンカンッと音が鳴る。

「へー、まぁそれは私の管轄外だしどうするかは好きにしなよ。

私に言えば上司に伝えるし、他に持ってってもね。」

 ドルネスがしっしっと手を振ったため、取り敢えずテーブルにつく。



「さて、どうする?

 まず、このジュエリーライトタートルの宝石買取価格の交渉は…」

「パス。」

「ラジェンドさんとワズで良いんじゃない?私もマイバルもそういうの苦手だし、ワズには経験を積ませるって意味で。」

「うん。……そうだな。」

 有難い。交渉は不得手だからね。

 マイバルも面倒なことをしないで済んで安堵の息を吐いた。

「なら、そっちの金属の肉は二人に任せて良いかい?」

「「え?」」

「どうしたんだい?

 当然だろ。こういうことはキチンと報告するべきだ。まぁ、どこに持ってくかは任せる。交渉次第じゃ、情報だけで金を絞り取ることも出来るだろう。

 よし、ワズ。こっちだ。」

「はい!」

 四人分の風呂敷から宝石と甲羅を掴み、自分達の風呂敷に入れて、ギルドから出てしまった。

 

「………」

「………」

 周りのテーブルで喋り声が聞こえる中、私達のテーブルに沈黙が流れる。

「マイバル…」

「嫌だ。」

「まだ何も…」

「嫌だ。」

 こんのくそジジイ…

 だが、本当にこいつが一緒で良いのか?

 ………まだ一人の方がマシかもしれない……か?

「分かった。私…」

 一人でやる。と言いかけた瞬間、脱兎のごとくギルドからマイバルの姿が消えた。













「それで結局、私の所か。」

 私は亀の肉をドルネスの所に持っていき、ギルドの上司への報告を丸投げした。 

「私にゃぁ、伝手も何も無いからさ。任せるのが一番だろ。」

「じゃあ、これ。見つけた時とか、亀と違う点を書いて。」

 そう言って白紙の紙を渡された。

「………」

「あからさまに嫌そうな顔をするなよ。私だってこういうの怠いんだから。」

 こういう書類を書くのは嫌いなんだよなぁ。

 違い…違い……甲羅から出ている身体が鉄色、鉄色の部分の肉が鉄のように硬い、撤退をしようとする行動、甲羅の宝石が通常よりも綺麗………ぐらいか。

 以外と少なかったな。

「書いた。」

「じゃ、それと亀肉。」

「はいよ、重いよ。」

 受付のテーブルに亀肉を置く。元ギルドメンバーだけ合って全身を使い、袋に入った亀肉を抱える。

「よっ!………預かる。待ってな、時間かかるならその時言う。」

「はいよー。」

 ……やば、ドルネスのテーブル臭いな。袋から滲んだ亀肉の血が付いたみたいだ。

「"水"」

 持ち歩いているタオルに水魔法を使い、ドルネスのテーブルを拭く。

 なんでって?だって怒られたくないからね。




「うわ!?臭っ!!」

 どうやら私達が使っていた六番テーブルを誰かが使うところのようだ。普通なら血抜きをしてからギルドに持ち込むのだが、あのマイバルは血抜きすらも嫌がる。いつもの亀なら市場に持ってって肉屋に渡せばいいし、血抜きをしてなくても買取額が下がるだけだが、今回はいつもと異なる状態で肉をギルドに持ってきたからだろう。

 


「ちょいと良いかい?」

「おっ?コ、コルテさんか。どうしたんで?」

 六番テーブルを使おうとしていたのは九級のライトローだった。

 こいつは、宮廷のあるカレキの街から態々田舎のザンドに来たやつだ。渾名は確か…物好きだったかな。

「そこ私達が使ってたんだけどさ、マイバルのアホが血抜きしなかったのよ。だから掃除するわ。」

「そ、そうだったのか。どうぞ。」

 心底嬉しそうに言う。

 まぁ、こんなテーブル使いたくはないわな。

 私がテーブルを拭いているとライトローが私をじっと見ていた。

「どうした?ライトロー。」

「いやぁ……」

「なんかあるのか?」

「うおぉ………」

 なんだ?まぁ、あとちょっとで終わるしいいか。

 テーブルを拭き終えライトローの顔を見たが、ボケッとしていてよく分からなかった。

 さて、空いてるテーブルを探すか。





「ライトロー?ライトロー?どうしたんだ?」

「………」

「おい!どうした!」

「うわっ!?……なんだ、ゴルトンか。」

「どうしたんだ?また一目惚れでもしてたのか?」

「違ぇし!俺はいつも本気だ!」

「じゃあ誰だよ。」

「コルテさんだよ!今日初めて話したけど笑顔がめっちゃ可愛かったぁ…。

 ギルドメンバーに女の人がいるって聞いて半信半疑だったけどザンドまで来てよかったぁ!」

「あぁ、登録した時に一目惚れしてたな。

 でもなぁ…可愛いんだけど、キュウリをいつも持ってるのがなぁ。」

「その程度で諦めるのか!?」

「別に俺はコルテさんのこと女性として好きではないし。先輩として尊敬はしてるけど、俺彼女いるし。」

「……………名前豚のクセに」

「ああ!?やんのかてめぇ!?」

「上等だ!このヤロー!」

「喧嘩は外でお願いしまーす!」

「分かったよぉ!ラフィリアちゃーん!!」

「……全くコイツは。」











「あっ、コルテさん。ここでしたか。」

「よぉ、首尾は?」

「それなりに…だ。」

 ドンッとテーブルの上に、パンパンの袋が置かれる。

 中身を見ると、いつもの額よりも多かった。

「どうしたんだ?こんなに。」

「どうやらあのジュエリーライトタートルの宝石はやはり、いつものより質とか色とかが良かったらしい。」

 それは何より、普通の亀の五割増しだ。

「あれ?マイバルさんは?」

「帰った。だからあいつには普通の亀分でいいだろ。」

「そうだな。」

「えぇっ!?いいんですか?」

「「勝手に帰ったあいつが悪い。」」




 ということで、金貨袋からマイバルの分とギルドに納める分を取り出し、残りの金貨を三等分する。

「こ…こんなにか…」

「こ、これ!?全部貰っても良いんですか!?」

「まぁ、三等分でそうなったんだしいいだろ。」

「こんなにあるなら!」

 ワズは金貨を素早く袋にまとめて入れて、足早にお礼を言いながらギルドから出ていった。

「どうしたんだ?あいつ。」

「なんかあんだろ。

 それよりコルテ。こいつはどうしようか。」

 ラジェンドはそう言って、懐から小さい宝石をテーブルの上に転がした。

「売れなかったのか?」

「あぁ、小さすぎて買い取れないって言われた。マイバルが砕いたやつだ。どうする?」

 私はその内の一つを指で摘まみ、天井にある光でその宝石を透かして見る。

「いらないのか?」

「うーん、他に持っていけば売れるだろうが、そこまでしても稼げるとは思えないんだよなぁ。」

 腕を組み、処理に困っているようだ。

「なら、私が貰おう。もちろん金貨一…いや二枚でだ。」

「いいのか?」

「挨拶も兼ねてな。それと、その金でワズになんか奢ってやれよ。あいつはもっと強くなる。」

「分かった。」

 交渉成立。

 ラジェンドは金貨をしまい、ギルドの受付に向かう。交渉や金の動きを報告しにいった。

 私?マイバルが戻ってくるまで待機だよ。







「よぉ、コルテじゃーん。何してんのぉ?」

 うっ、この間延びした声は……

「よぉフィラント…さん。」

「おいおい、さんなんてぇ距離感じちゃうよぉー?

 前みたいに気軽に読んでくれよぉー。」

 こいつはフィラント。このギルドで一番階級が高い三級かつ登録から三年でここまで来た凄腕で、ザンドの街で一番のイケメンとまで言われている。一度こいつが街を歩けば、男女問わず見惚れてしまう。そして…………私はフィラントが嫌いだ。

 自惚れた愚か者のように振る舞いながらも、実力は確かでギルドからの信頼も篤い。だが、私が嫌いなのはそこじゃない。

「無理だ。私は六級だからな。」

「そっかー。でぇ?何してんのぉ?」

 目だ。人を玩具のような目で見つめ、興味を無くすと顔はそのまま笑っているが、目だけが色を無くす。まるで、自分以外の人に価値が無いと言いたげな態度が私は嫌いだ。

「マイバルを待っている。報酬の山分け前に消えたからな。」

「ふーん。そー。じゃあねぇー。」

 ほら、その目だ。私をイライラさせる。

「あ、あの…すみません。」

「んっ?」

 声をかけられそちらを向くと、びくびくしながら私を見る少女がいた。

 この子は………

「えっと、初めまして。ラキュアです。

 マイバルさんはさっき私達がいた酒場にいました。店名は確か…」

 あのマイバルを受け入れる酒場なんて………

「祈りの酒場?」

「はい!そうです!

 ……あっ、すみません。」

「いいよいいよ。」

「おーい、ラーちゃーん。」

「あっ、それでは失礼します。」

 ラキュアは駆け足でフィラントの所に戻っていった。

 ………"また"違う女の子を連れてる。

 あの娘は………考えたくもない。



「おい、アズガイア!」

 私は先程の嫌な記憶を消して、テーブルに二人以上いたグループの内、一番御しやすいやつを呼んだ。

「なんすか?コルテさん。」

「ちょっと祈りの酒場まで行ってマイバル呼んできてくれ。銅貨やるから。」

 テーブルまで呼び出し、銅貨を一枚置く。

「えぇ?一枚だけ?ケチっすねぇ。」

「ならキュウリもつけるぞ。」

 私は腰に差していたキュウリを差し出す。

「結構です、呼べば良いんですね。」

「よろしく。」

 暇だし食べるか。

 パリパリパリ_______








「コルテさん。連れてきました。」

「ありがとよ。」

「ハッハッハ!すまねぇな、コルテ!」

 アズガイアが疲れたように、マイバルが大笑いしながらギルドに入ってきた。

「コルテさん、酷いんですよ?マイバルさん金持ってないのに飲み食いしてたんですよ?そのせいで俺の懐がぁ!」

「今から払うっての、うるせぇなぁ。」

 うるさいのはお前だよと思ったが言わなかった。

「ほらよ。」

「おぉ、マイバルさんって約束守るんですね。それじゃあ。」

 金を受け取り嬉しそうにテーブルに戻っていった。




「ありゃ?以外と少ねぇな?

 珍しくて金も多いと思ったんだけど。」

 おっとやべ。

「まぁ、いつもと違うと言っても周りに知られてないからな。しょうがねぇし、高くなるならもっと情報が出てからだろ。」

「そうか。」

 納得した様子でマイバルは金貨を受け取り、ギルドを出た。あの様子じゃ祈りの酒場にまた行くんだろうな。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

銅貨 百円

銀貨 千円

金貨 万円

形が変形していたり、デコボコのものはそれによって少し安く扱われる。

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