5,百の煙、一の火
「とはいえ、火のないところに煙は立たぬ、と言うべきなのかしらね。なんだかんだ此処も、因果が変な絡まり方をしちゃっているみたい」
本を閉じた紫澱が、空気を指に絡める動きをする。おそらく彼女には因果の糸が視えており、それに触れているのであろうことは容易に想像できた。
実際は因果に触れることなどできないためそれっぽい動きをしているだけなのだが、実際に触れているのかどうかなど望美にとっては些細な問題に過ぎない。
「そう言われても、私が見えないんじゃ意味ないわ」
「あら、貴女の持ってきた情報が正しいことはわかったじゃない」
「私は幽霊が見たくてやってきたのよ。“いる”と知るだけならそれこそ噂で十分でしょ。私は情報じゃなくて、体験を求めているの」
「まぁ、情報ならいくらでも代替が利くものね。最近は機械化・情報化の波が来てるけど」
「むしろ情報化が進む今だからこそ、体験の価値は上がってる気がするわ。いえ、上がってるのよ」
自分なりの拘りがあるのか、望美は少しだけ興奮気味に話している。
紫澱もあえてそれを否定しないあたり、どうやら似たような考えは持っているらしかった。
余談だが、二人はどちらも友達付き合いに興味を持たない方だ。自分の時間を大切にしたがる二人が互いに唯一の友人として長く付き合っているのは、こういった所が大きな理由なのだろう
「百聞は一見に如かずってね。だからこそ、拍子抜け。遂に幽霊が見れると思ったら、いつもと変わらないおんなじ景色なんだもの」
「同じじゃないわよ。安心して、ちゃあんと恐ろしい景色が私には見えているわ」
「だから、私に見えなきゃ意味が無いんだって。それに私ができないってのに、目の前で興味なさげな相手に体験されることほど屈辱的なことは無いわ」
本当に悔しいのだろう。望美は悲しみとも怒りともとれる表情で、テーブルの端の虚空を眺めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます