溺愛

ブルコン

溺愛

怪物を見つけたんだ。


いつの日だろうか、

誰かがそう言ったのは。


その頃は馬鹿にしていた。

けれど、今は。

今は馬鹿にできない。


なぜなら怪物を見つけたから。

見つけてしまったから。

たまたま目に入ってしまったから。

故意ではなく、偶然に。


今現在、

僕の眼の前に、

怪物がいる。


それは僕と同じくらいで、

それは僕とよく似ていて、

それは僕みたく驚いていて、


まるでもう一人の僕を見ているようで、


だからこそ、怪物なのだ。


僕の僕が僕であるという僕自身が僕ではない気がする。

それがやけに恐ろしく、酷く、怖く、脆く見えてしまう。


でも、

何故か、

本当に何故か、

何も一切分からないけれど、

可愛く見える。


なんて可愛らしいのだろう。


その魅力とその恐怖が心を撫ぜて、

歯の震えで拍手をしているみたいで、

どことなく虚無を感じて、

少し脳が痛い。


目から水がというより感情が溢れ出て、

顔面を湿らせて、

光の反射が狂いだす。


自分の顔が思い出せない。


見ても、

見ても、

見ても、

視界は狂ったまんま。


怖い、

怖い、怖い、

怖い、怖い、怖い、

怖い、怖い、怖い、怖い、

怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、

怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。




涙が全て枯れ落ちた頃、

世界は水に浸っていた、

反射は狂い続けたまんまで。


この曖昧さのせいで、

この一方的な主観のせいで、

このせめてもの可愛らしさのせいで、



僕はこの世界が水槽のように見える。



怪物は僕よりも僕らしく、

頭から沢山の想像を零して、

無駄を切り取った完全なる本質を携えていた。



あぁ。



水の中に愛を流していく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

溺愛 ブルコン @cogitergosum11

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説