第3話
さて、念願のジッポを手に入れたが、計画の実行にはいくつか問題もあった。
まず、今は夏で、ここは北半球だった。昨日の夜には雪の代わりに激しい夕立が降っていた。トレンチコートなんて着た日には熱中症で運ばれる羽目になるだろう。
次に、私には恋人がいなかった。いなければ作れば良いのだが、昨今はタバコを吸う人も減ってきているのが実情だ。ましてや、待ち合わせの前にタバコを吸い、タバコの香りを漂わせた男を許容してくれる恋人を作るのは、少なくともここ数十年の中では最も難しくなっているように感じた。
何より、私はタバコを吸わなかった。タバコを吸ってみたいとは思うし、吸う姿に憧れていることも間違いない。全く吸ったことがないというわけでもない。父親や同僚が吸っている際にもらったことは何度かあるが、いずれも酒を飲んでいたので、大した感想は抱かなかったし、抱いていたとしても次の日にはおおよそ忘れており、タバコに対する朧げな憧憬だけが残っていた。
もう一つの課題として、私は喘息持ちだった。今でこそあまり気になることはないが、小さい頃はプールに入っただけでも咳が出るくらいだったから、多分肺やら気管支が人より弱いのだと思う。喫煙でこれらの器官にさらなる負担を強いるのは、我が身ながら少し酷な気がした。
こうして、手元に揃えることができたのは、今回買ったジッポと、前の冬に同じリサイクルショップで買った黒いトレンチコートだけだった。
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