第4話

これではあまりに寂しい、そう思った。このジップジッポが報われない。少なくとも、火を灯すくらいはさせてやりたいと思った。


ジッポとオイル、それからティッシュを少し切って玄関を出た。正午の強烈な日差しを受けて、皮膚が少しずつ焦げていくように感じた。この分ではそう長くは持たないだろうと、急いで支度を始めた。


ジッポを開け、凸部分をつまんで中身(インサイドユニットというらしい)を引き抜く。インサイドユニットの底に貼りついた綿の板のようなもの(フェルトパッドというらしい)をしばらく爪で引っ掻き、端を引っ張ってめくる。ジッポオイルの頭をマイナスドライバーで跳ね上げ、めくったフェルトパッドの下に詰まった綿にオイルを流し込んでいく。十分オイルが染み込んだら、全てを元に戻す。


ここでいう、「十分オイルが染み込んだ」というのがどの程度なのかわからず、最初は気持ち少なめになるようにオイルを注いだ。しかし、組み立てなおした後、何度かカチカチと火花を散らしても、火が点かなかった。オイルが少なかったのだと思い追加で注いでいると、指がベタつく感覚を覚えた。手元を見ると、ひっくり返したインサイドユニットからオイルが滴り始めていた。


「ジッポ 使い方」でweb検索して出てきたサイトに書いてあった通り、あらかじめティッシュを持ってきておいてよかった。心からそう思いながら、溢れたオイルを拭き取り、インサイドユニットを元に戻した。今度も中々火が点かなかったが、強めにホイールを回すと、ついに小さな火が灯った。風を受けると簡単にゆらめく炎は、小さいながらもジッポを持つ手にほんのりと熱を感じるくらいには力強かった。


額から滴る汗を拭って、私はふと、このただでさえ暑い時に、なぜさらに熱源を増やしたのだろうと思った。

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