第2話 アイクと人間

アイクにはアイデンティティが存在していた。

その核はプログラムの順守ではなく、一個体としての人工知能の導き出した応答であった。


アイクはゾーンA内に放たれた。

やがて普通に暮らし始めた。

人間として人間に認識され、人間として社会に組み込まれた。


ある日の午後のことだった。

アイクは自宅の観葉植物に水をやっていた。

「ねえ、知ってる?」

人間であり友達のミイナが言った。

「あそこの研究所で爆発事故があって全員死んじゃったんだって」

へえ、とアイクは声を漏らした。

アイクの人工知能は気の毒だという答えをだした。

「そんなこともあるんだね。こわいなぁ」

アイクは霧吹きを置いて呟いた。


その事故で、アイクを作った者たちは死んだ。

アイクが人間ではないと知る者は、ゾーンA内に一人もいなくなった。

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