アンドロイドのアイクと人間のゲン

トてら

第1話 アイクの誕生

世界は長い長い壁で二つに仕切られていた。

見上げても視界に収まりきらないくらいの高いそれをのりこえない限りは、もう片方に行くことはできなかった。

片方はA、もう片方はBというゾーンだった。


ある日、ゾーンAで最新技術を使い、人型アンドロイドのアイクが生み出された。アイクは人との見分けが全くつかない程に、人間に似せてつくられていた。

触ったら温かく、その表面を覆っているのは他でもなくふにふにの肌だ。

手首に青く透ける血管や額のニキビ、包丁で浅く指を切ってしまったときににじみ出る血。


まばたき、髪をかき上げるといった仕草や言葉のイントネーション、急いで言葉を紡ぎだそうとしすぎて発生する文法の崩れ。

足の小指を棚にぶつけたときにあげる悲鳴。

ありとあらゆることが表面的に再現され、ゾーンAの人間が「アイク」と「人間」を区別することは完全に不可能だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る