五秒で読める掌編集


【退職代行】



「退職代行を使って辞めるなんてけしからん! 辞める、と面と向かって言えない奴がこれからの社会を支えるのかと思うと……――日本の未来は大丈夫なのか!?」


「それは――――あなたの意見なのですか?」



「いいや? 代弁しているだけだがね」










【発達】



「発達障害と聞くと、なんだか『強過ぎてしまったがゆえの弊害』に思えるんだよな……」


「? ――つまり、強過ぎる力に堪えられずに走れば転ぶみたいなことか?」


「目が良過ぎてサングラスをかけないと失明するみたいなね」









【走馬灯】



 ブレーキと間違えてアクセルをべた踏みしたのだろう車が、歩道に突っ込んできた。

 避ける暇もなく、俺は車の下敷きになってしまい――……意識が朦朧としている。

 動かそうとしても体がまったく動かなかった……あ、やばい……もう死ぬのだと分かった。


「――丈……ぶ、――すか……た――」


 と、駆け付けてくれた救急隊員が声をかけてくれているが、返事ができない。

 ギリギリ保っている糸が、そろそろぷつんと切れる頃だろう……冷たくなっていく……。


 視界が狭まっていく。


 頭の中で、これまでの人生の思い出が巡っている。これが走馬灯というやつか……やっぱり、死ぬ間際になると走馬灯が見られるというのは本当だったのか…………――あれ?


 違う。


 知らない。


 俺は――――こんな人生、送ってない!!


 たぶん……、



「――これ、俺の走馬灯じゃなくない!?」



 そして、俺は息を吹き返したのだった。











【地下市場】



 一部の声のせいで、多くの人が求めるものが規制、もしくは発売中止になることが多々ある。


 その界隈のことを詳しくもない人が「公共の場には相応しくない」だの「子供に悪影響だ」と批判することで、多くの利益をもたらしたであろうコンテンツが世に出ない大損害が起きている。……だが、日の目を見なくとも、影の中ではきちんとお披露目はされているわけだ――


 水面下ではあるが、盛り上がっている市場がある。

 そのコンテンツが好きな者たちが集まり、経済を回している……。


 批判する人間がいない平和な世界。


 面倒ごとを避けるなら、最初から大多数ではなく一部のファンにだけ発表し、商品として売り出せばいい……――後々、水面下の市場は人伝に広がるので、やがて人が集まってくる。

 わざわざ土の中を掘り起こしてまで批判をする人間は少ないし……、公共の場に堂々と出ていなければ叩きにくいのも事実だった。


 日の目を見ない、人の目に触れないところでやる分には自由だし、誰の迷惑にもなっていないのだから――。


 結果的に、水面下で盛り上がっていた市場が地上の市場を上回っていた。

 ほとんどの人が、今や水面下の市場を好んでいる。

 多くの企業が批判を恐れて水面下に出店している……地下が地上を食ってしまったのだ。


 地上の市場は閑古鳥が鳴いている。


 地下の市場はさらなる盛り上がりを見せていた。


 ――みな、水面下の方が良質であると認めてしまっているのだ。


 優れたものが集まる地下が、いずれ地上に出てくるのだろうか。

 それとも――、


 地上と地下が入れ替わり、人の目に触れないはずの市場が、主流になっていくのだろうか。




 …おわり

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居眠りから起きた授業中、先生の言葉だけを頼りに現在の教科書のページを当てるのって難しくないか? 渡貫とゐち @josho

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