居眠りから起きた授業中、先生の言葉だけを頼りに現在の教科書のページを当てるのって難しくないか?
渡貫とゐち
覚醒
「――はっ、やべ……寝てた……」
時計を見れば、授業は約半分が進んでいた。その割には、板書にはまだなにも書かれていなかった。どうやら先生は口頭で教科書を読み、説明しているらしい。
「……で、あるからして。この問題の答えはこうなるな――」
繋がりが分からない欠片の話を聞いても頭に入ってこなかった。
おかしいな、日本語のはずなのにな……。
「って、教科書っ、ページ、どこだっ!?」
慌てて教科書をめくって探っていると……つんつん、と横から肩をつつかれた。
おれの肩をつつくシャーペン。その持ち主は、隣の席の――
「……なんだよ」
「やっと起きた。ぐっすりと寝ちゃってさ……いいご身分ね。それともよほど疲れていたの? 徹夜とか……? ゲームか、深夜アニメだったり?」
サイドテールの女子だった。
彼女は頬を上へあげ、にまにまと。
……いつもおれをおもちゃ扱いしてくるいじわるなやつだ。
被害に遭っているおれが、多少雑な対応をしても責められないだろう。
「……うっさい」
「ひどっ。せっかく教科書のページ数、教えてあげようと思ったのにー」
「いらない、自分で見つけるし……。くそ、黒板は情報が一切ないし、先生が話す内容だけでなんとかページ数を導き出すしかないんだよな……」
先生の言葉を一字一句聞き逃すわけにはいかなかった。普段は聞き逃してばかりだけど、目的があると言葉が耳に入ってくるのだから人間の耳って不思議だ。
ページ数を探るための情報として聞いているだけなので、別に授業を真剣に聞いているわけではない。
熱心に見えてもたぶん問題は解けないだろうな。
「ねえ、いじわるしないから……教えてあげるけど? ほら、ここよここ、このページ――」
「やめろ教えるな。どうせ見当違いのページを見せるつもりなんだろ、分かるし。それでおれを間違えさせて恥をかかせたいんだ――分かってんだよ」
「わたし、そこまで性格悪くないんだけど!?」
「もーうっさい! 先生の授業が聞こえないじゃないか!」
「いつもは聞いてないくせに……」
まるでいつもおれを見ている、みたいな口ぶりだな。って、隣の席だし、目に入るのか。
草食動物ほどではないにせよ、視界は横まであるわけだ。視界の端で動くものに気を取られるように、おれのことを目で追ってしまうこともある……か?
でも、おれは別にこいつのことは見てないしな……。
すると、視界の端で授業が動き出した。
「そうだな、じゃあ今日は日付から――よし、
「え、はいっ!?」
「(ねえ、そろそろページ数を教えてあげ、)」
「いい、頼らねえ。ここは自分の手で切り開く……勘でいくぞ!」
奇跡を信じろ、おれ!
「勘でいくの? 絞らずに……? 可能性は無限大なんじゃ……」
「どうした島田? 早く答えを言いなさい」
「分かりました。答えは――『まる』、です」
「誰が二択の問題を出した。今やっているのは数学だぞ?」
「いえ、冗談ですってば。この問題なら……はいはい、証明できますよ?」
「できるかどうかじゃなく証明するための中身を見せなさい。……というか、そもそも解いている問題が違うんだ。いや解いてないだろ、寝てたなお前?」
「寝てませんよ」
「教卓の前に立ってみろ。……全体が見えるからな?」
そう言われてしまえば、立ったことがあるため説得力がある。
今更授業に緊張するわけもないし、先生はおれの居眠りを知っていた、ということになる。じゃあなんで見逃すんだ、と思ったが、全員に毎回注意をするわけではない。そのへんは先生の匙加減だった。
注意されないことを良しとするか、切り捨てられたと取るかで未来が変わっていそうだ……。
「ふう」と溜息を吐くと、「溜息を吐きたいのはこっちなんだが……」
「先生、何ページです……?」
「ったく……66ページだ。さっさと問題を解け」
「あざっす」
「あ、66ページだったんだ……へえ」
「え、お前……」
サイドテールの女子がぺらぺらと教科書をめくっていた。
って、おい。
「じゃあ、お前はどのページを見てたんだよ……なにをおれに教えようとしてた……?」
てへ、と、舌を出したあざといポーズの女子。
女子から嫌われそう……。
「…………」
起きて聞いていてもページ数を見失うのなら、居眠りしてる方がマシじゃない?
…おわり
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