第2話:揺れる誓い

「リオ、調整を急いでくれ!明日の試験飛行までにエンジン出力を10%上げる必要がある」


開発から一年半、新型飛行船「ウィンドフォージ」のプロトタイプが完成していた。ネオ・ルミナ郊外の広大な帝国軍技術研究所の格納庫は、昼夜を問わず技術者たちの活気に満ちていた。


リオは髪を振り乱し、エンジンの最終調整に没頭していた。彼の設計した「風力融合エンジン」は、予想を上回る効率で機能していた。船体は従来のものより30%軽く、速度は50%上昇。何より燃料消費は驚異的に少なかった。


「この調子なら、大陸横断も夢じゃない」

彼は誇らしげに呟いた。


だが、その晩遅く、リオが最終チェックのために格納庫に戻ると、見知らぬ技術者たちが船体に何かを取り付けていた。


「これは...兵器マウントだ」リオは声を押し殺して言った。

背後から足音が聞こえ、振り返るとアリスがいた。彼女の顔には疲れと決意が混ざっていた。


「明日の試験飛行後、軍部が視察に来るわ」彼女は静かに言った。「彼らは実戦配備の可能性を探っているの」


「実戦?」リオの声が上ずった。「アリス、僕たちの船は民間用だろう?資源運搬や探査のための」


「世界情勢が変わったのよ、リオ」アリスは彼を静かな一角に導いた。「セントラル連邦との緊張が高まっている。東部国境では既に小競り合いが始まっている」


リオは青ざめた顔で壁に寄りかかった。父の技術を戦争に利用するなど、考えたこともなかった。


「僕は人を殺すための道具を作るために、この船を設計したんじゃない!」

アリスの表情が硬くなった。「私たちには選択肢がないの」

「必ずある!」リオは声を荒げた。「この技術は人々の暮らしを良くするためのものだ。医療品や食料を運び、離れた場所をつなぐ—」

「そう思いたいのはわかるわ」アリスの声には苛立ちが混じっていた。「でも現実を見て。世界は変わった。強くなければ生き残れない」

「だったら僕はこのプロジェクトを降りる」リオは決意を固めた声で言った。


アリスの目に一瞬、痛みが浮かんだ。だが、すぐに公人としての仮面が戻った。「そうね。あなたの選択は尊重するわ」彼女は冷たく言った。「でも明日の試験飛行だけは立ち会ってほしい。これはあなたの作品でもあるのだから」


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翌日、試験飛行は成功した。「ウィンドフォージ」は予想を上回る性能を示し、視察に訪れた軍部高官たちを感嘆させた。


試験飛行成功を記念した式典の後、リオはアリスに近づいた。「最後にひとつだけ聞かせてくれ」彼は静かに言った。


「君は本当にこれでいいと思っているのか?」


アリスは一瞬、言葉に詰まった。彼女の目には、迷いと決意が交錯していた。「これが私の道よ、リオ」彼女はようやく答えた。


「私は帝国を守るために、できることをする」


リオはゆっくりと頷き、彼女に背を向けた。「さようなら、アリス」

彼が研究所を去る姿を、アリスは静かに見送った。彼女の目から一筋の涙が流れ落ちたことを、誰も知らなかった。

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