真の危険

彼女達に電話をかけた後3コールめでスマホから声が聞こえてくる。


「どうかしましたか」

「ああ、今すぐ家からでろ」

「どうしてです?」

「いいから廃工場にユノを連れて戻れ。俺達も向かう」


そう言い何か聞こえてきたが電話を切る。

そして目の前の人物、雪羅春菜へと顔を向ける。


「逃がしてくれた?」

「それはわからないが少なくとも命令どうりに動いてくれるはずだ」

「そう、なら良かった」


先程の元気はどこへ消えたのか彼女の顔には暗雲が立ち込めていた。

彼女、春菜はどうやらユノと同じでもう壊れてしまったらしい。

何があったのか簡単に説明をすると、春菜さんはユノ(志乃)に対して重度のシスコンである。日頃からユノへプレゼントを渡していたり良く部屋へ出入りをしているそうだ。


「では俺達もそろそろ行きましょう」

「少し、ほんの少しだけ話せてくれないかしら」


いつものような掴みどころの無い彼女がいつにもまして真剣な表情で語りかけてくる。もちろん断らずに俺は話を聞くことにした。


「かなり暗い話になるけど良いの」

「貴方が話したいと言い出したんでしょう」

「そっか。なら最初から話すね」


そうして彼女は日々の懺悔よりも重く濁った話を話し初めた。


「私はね、虚像なんだよ。昔、昔、小さい女の子が二人いました。その二人は姉妹でとても中が良く、それは両親の前でも変わりませんでした。その二人はいつまでもこの幸せが続くと思っていました。ところがその子達が4歳になった時悲劇は起こりました。姉が白血病であることがわかり治療を試みても駄目でした」


彼女はそこで息を置きコーヒーを口へと含ませる喋ったことで乾いた唇を元に戻し再び話し始める。


「その数週間後その娘の姉は死にました。親はお腹に新たな生命が芽生えいていたのが分かっていたのでしょう。優先順位というものを。しかし姉が予想以上早く死んでしまいその頃から妹の事をこう呼ぶようになりまた。春と」

「つまり春菜さんには姉がいて白血病で死んだから自分が姉の名で呼ばれるようになったと」

「いや、志乃にその名をつけようとしたから私が変わりになったんだよ」


俺の問いかけに帰ってきた返答はどこか冷たく世界への拒絶を感じ取れた。

これは思ったより面倒で面白そうだな。

そう思ったところで彼女は話を進める。


「そこからは私と志乃の生活自体を牛耳り初めたわ。そして私はそれが嫌だから逆に利用して志乃と最大限一緒にいれるよう操作した。志乃へのプレゼントに盗聴器とGPS、小型カメラを仕掛けて観察したり健康面も志乃や母より私が知り尽くしているわ」


これはユノの黒幕としての間違いのない自白だ。


「つまりお前がユノをあんな状態にしたってこど良いのか」

「うん、そういうことになるね」


彼女の言葉を聞いて悪びれているところがあまりに見えないなことから春菜さんの狂気を感じる。

だがそこで疑問が浮かんだ。


「一つ質問なんだが、なんでさっき俺に彼奴等に避難しろと警告したんだ?」

「それは...あれ、何だっけ」

「おいおい」


先程の話で記憶がなくなってしまったのだろうか。


「あ、でも一つだけ確かな事を思い出したよ。あれは確実な私の意志だね」

「春菜さんの意志」


どういうことだろうか。彼女は自分の考えに従って行動をしているはずだ。

春菜さんがユノしたような事はされていないだろうに。

これはまだ後ろに確実に何かがあるな、そんな事を思いながら席から立ち上がる。


「そろそろ行きましょうか」

「そうだね」


そうして俺と春菜さんは料金を支払って廃工場へと向かった。


廃工場へと着いてから扉を開けるとユノ達はすでに来ており各々の定位置に着いていた。そしてこちらを見るのと同時にノアが口を開く。


「何故、いる、春菜、さん」


他の奴らも俺の後ろにいる春菜さんを見て戸惑っていた。


「俺が連れてきたんだ。どうやらこの人もこの人で被害者だからな」

「どういう事?」


そう聞かれた俺は春菜さん目配せをすると彼女はこちらを見て明確な意志の宿った目をして頷く。


「つまり、ユノと春菜さんをこうした諸悪の根源がいるんだよ」

「春菜さんは敵のはずでは」

「敵か~。まぁそう思われても仕方が無いよね~」


そう聞いてきたネラに対して俺は全員が聞こえるような声で彼女の過去を話した。

どうやらユノ自身も知らないことがあったのか途中で目を丸くしていた。


「確かに春菜さんも被害者と呼べるね。だけどユノに対してやったことは当然許されべきでは無いけどね」


ルシアが冷え切った声で春菜さんを見る。

彼女は彼女でまだ言って無いことがあったのかその視線を無視して言葉を放つ。


「実は志乃の学校でのいじめを取り締まっていたのは私何だよね。もしかしたら私に頼ってくれるかもって」


その言葉を聞いた俺達は全員が時が止まったと錯覚するほどに動けなくなった。

とんでもない爆弾を投下してきたな。


「けれどこれもちょっとおかしいんだよね。そう命令をしたのは私だけど何故そうしたかはわからないの」


そんな意味深な言葉を言い終え彼女はいつもの状態へと戻る。

これは春菜さんでも知らない黒幕がまだいそうだな。

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忘れ者 your clown ユピエロ @404314

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