彼らが去ってそれから

私達はユノの部屋へ向かうとルシアがノックもなしにトアを開ける。


「ユノ~!」

「わっちょっと」


ルシアがユノに飛びつくとユノは少し狼狽えバランスを崩しベットに押し倒された。


「ルシア危ない」

「でも久しぶりのユノだよ、ノアだって心配したでしょ」

「そうはいっても気おつけてください」


ネラが止めに入りルシアはユノから離れて体制を戻す。

どうやらユノはまだ状況が飲み込めていないようだった。

場所を部屋から前に来たリビングへと移し本題に入る。


「貴方達、何故来たのかはわかるけどあれは無いわよ」

「ごめんなさい」


ルシアの反省がこもっていない生返事にユノは少しムッとした表情をした。

あれ、ユノってこんな表情を顔に出してたっけ?

心のなかで生まれた疑問を頭蓋の外へと排出しユノの目を見る。


「ユノ、何があったのか教えて」

「えぇ、少し待って頂戴」


そう言われてユノを見ていると一瞬雰囲気が変わったような気がした。


「ふぅ、良いわよ」

「ユノ、君はどうして普通の生活ができるのような性格になれたんだい」

「それに関して言えば私はいつでも普通の生活を送れたわ。たまたま前の問題と重なってしまっただけよ」

「ふーん、言う気は無いってことね」

「どう取ってもらっても構わないわ」


やはりユノは何かを隠しているようだ。それは私達が初めてあったときからある暗黙の了解、人の問題に首を突っ込まないというものがあるからだがやはり私達も変わってしまったという事だろう。

あの男によって。

以前の私達ならきっとユノがこんな事になっても気にはしなかっただろう。

いや、それは私だけだったかもわからないが、結局いまこの場にいることが結果を物語っている。


「ねえ、何でユノは人が変わったようになったの」

「っ...」


私の問いかけにユノのは言葉では表すことがおこがましいほどの表情を向けて口を開く。


「ズサ...それは......」


だけど彼女は何かと葛藤しているようですぐに答えは返ってはこない。

数秒後、彼女は決心したかのか再びその口を開く。


「今から言う事は信じれないものかもしれいけど信じてくれるかしら」

「みんな此処にいる時点で答えは決まっているよ」


ルシアがそう言った後、彼女ユノは語り始める。


「私、私でないの」

「どういうこと」


ユノが言ったことにその場で聞いていた全員が疑問の表情を浮かべる。

ユノはそうなることが理解していたのかそのまま話しを進める。


「私は多重人格者なのよ」


多重人格者。それは自分が自分でなくなり体が自分という意思の命令を効かなくなるという解離性同一性障害と呼ばれる疾患の一つ。

それがユノに対してあった違和感の正体だろう。


「けれど一般の多重人格とは違うの」

「それはどういことなの」

「私は自分が自分じゃない時も自分の意思で体を動かせるのよ。多分それは私が意図的に形成した人格だからかしら」

「人格、形成、普通、無理」

「えぇ。普通なら、ね。でも私達が普通ではないことをノア、貴方が一番理解しているでしょう。だから出来たのでしょうね」


人格の形成を自分の意思でできる人間がどれほどいるだろうか。

恐らくできるのはユノだけだろう。それほどまでにおかしい現象だ。


「でしたら何故その人格を作ったのでしょうか」

「それは...姉さん、春菜姉さんから私自身を守るためよ」

「春菜?誰それ」

「知らない名ですね」

「無知」

「私も知らない」


ユノ姉ということは一人しかいないだろう。だけど名前は春だったはずだ。


「知らないはずが無いわ。貴方達も話していたじゃない」

「いや、あの人は春さんでしょ」

「春さん...どうしてそんな名を名乗っているのかしら姉さんは」

「とりあえずその話しは置いておいて何でお姉さんから身を守る必要があったの?

明らかにヤバそうなのは分かったけど」

「それは姉さんの支配から逃れるためよ」

「支配?」

「姉さんは私という人間を自分の物にしたかった。だから私は自分自身を守るために新しい人格を作り上げて身代わりにしたの」


ユノは今淡々と言ったが実際はとても辛かっただろう。自分を矯正してくるソシオパスの手から自分を守ることは。


「そうして姉さんの言うことに聞くようになったら生きている私が人格を壊して消してきたのよ。幾度となく人格を作り上げて、幾度となく人格を消していったの。だから私の手は血に汚れていないけど呪い汚れているのよ」


ユノはそう言って自分の顔を汚れていると言った手で覆う。

彼女は今どのような心境に苛まれているのだろうか。


「だからユノがユノとして感じれないときがあったのね」

「でも前のユノも今のユノも結局は同じってことでいいのかな」

「そう取ってもらって構わないわ」


彼女の中で線引がどうなっているかは分からないがきっと今まで通り接すればいいだろう。


「よし。それじゃぁ後はお姉さんの春菜さんをどうにかすれば良いだけだね」

「そういうことになるわね。でもそんな簡単に行くのかしら」

「大丈夫、大丈夫関さんがいるから」


何で彼にそんな期待を抱けるかが不思議だが、後はなんとかしてくれはするだろう。

そうみんなが思っていた時ネラのスマホの音がなった。


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