一時休戦

「...いたた、たっくやっぱり野宿は板についているとはいえきついな」


ノア達と喧嘩した俺は外に出たまま一夜を過ごしたが体は少しこらえたようだ。

あいつら少し頭を冷やせてたら良いが。

昨日のままだったとしたらズサ以外は何も聞いてくれそうではないが。

そもそもズサも彼奴等といると話を聞かなさそうだな。

そんな事を考えながら俺は扉に手を掛けるとギィィと扉が開いた。

ずっと閉じているものだと思っていたので内心驚く。

流石に半日扉の前で居座ることは出来なかったようだ


「ん、起きた」


ズサが眠そうな顔でこちらを見てくる。

他の奴らはまだ眠っているようだ。

ふと時間が気になり時計にを見るとまだ朝の4時、昨日の騒動もあり疲れているのだろう。

そもそも普通の学生は起きる時間ではないし、あの騒動もほぼ俺が引き起こしたものであるから何も言えないのだが。

そんなこんなで俺はゴミ山の横にあるくたびれたクローゼットから毛布を取り出し起こさないように彼女達にかけて回る。


「起きるの早いんだ」


起こさないように小声でズサが話しかけてくる。


「そりゃあ外じゃぐっすりとは眠れんだろう」

「確かに」


そこから言葉をはすることなく沈黙が続く。

俺には朝やることがあるのでまた外に出ようとすると何故かズサもついてきた。


「なんでついて来る」

「今監視ができるのは私だけ」


ズサが当初の目的を達成するためについてきたのは分かったがどうにもそれ以外の理由もあるような気がする。

ただそれを今考えても意味がないので脳の外へと排出した。


そうして俺は廃工場を出て透明な袋を持っていた。


「なにするの」

「ランニングとついでにゴミ拾いだ。運が良ければゴミが金になるからな」

「ゴミがお金に?」


どうやら実感が無いようだ。

この場合あったほうがおかしいとも言えるが。


「いいか、ペットボトルキャップ1kgで5円だ」

「すくない」

「何を言う、塵も積もれば山になるんだよ」

「吹けば無に帰りそう」

「...」


そんな事を話しながら俺は走り始める。ズサがいるのでいつもよりペースは少し遅い。

大体5キロ走って帰ってくるいつものコースだ。

ただズサの体力が未知数なので少し不安ではあるが。





そんなこんなで俺とズサはランニングから帰ってきてネラ達が起きるのを待っていた。

途中ズサが疲れて少し休憩したがちゃんと最後までついて来たので体力はあるほうだろう。


「ふぁ~」

「おはようルシア」

「ズサおはよう、て何で関さんがいるの」

「いや此処元々俺の住処だし」


寝起き開口一番にこの反応だ昨日喧嘩で相当嫌われたらしい。


「寝起きで俺の顔を見たんだ、眠気はもう冷めただろ」

「それはもちろん。今から100m 走ができるくらいには」


おい、少しは否定してくれ。

自分で言ったことだがかなり傷つくんだぞ。

そんな事をお思いながら俺はその後起きてきたノアとネラにも同じようなやり取りをし、かすかに傷ついた。



「今日、ユノ会う」

「おう、ノア会いに行ってくるのか」

「貴方間違い正す」


どうやら昨日の喧嘩の真相を確認したいらしい。

ただ俺は別にどうでもいいので適当に聞き流す。ただ聞き流していたのがバレたのか服の袖を引っ張りながら俺に話しかけてくる。

元からボロい服が伸びるからやめてほしいのだが。


「ついてくる」

「ついて来てほしいのか、なんでだ」

「春さんがいると萎縮してユノにあっても何もできないからです」


ノアの代わりにネラがそう答えると俺の真正面に立ち頼み事をしてきた。


「私達だけだと春さんにあった時に対処できないのでついて来ていただけませんか」

「嫌だ、俺とお前達は今喧嘩中だ。それに俺にとってのメリットがない」


つくづく俺は子どもだなと思いながらネラの言葉を待つ。

ネラは少し考えた後危険な言葉を口にする。


「メリット...では無いですがもしユノが関さんの言っている通りだったとしたら私の事を好きにして良いですよ」


一瞬にして場が凍った。

ネラは今確かに自分の事は好きにしていいと言った。それは普通の人や学生なら邪な事を考えていただろう。

それにルシアやノアも驚いている。


「急に変なことを言い出すな。そういう事はあまり言わない方が良いぞ」

「ですが今提示できるメリットはこれぐらいしかありません」

「魅力的な提案だ、だが俺にとってはもう必要ない提案だな」

「そん...な」


何故か絶望したような表情でこちら見てくる。そこで俺は答えがわかりきった問いかけをする。


「ネラ、ユノはお前に取って自分を犠牲にして死ぬような価値がある人間なのか」

「はい」


即答。

なんの迷いも無しに即答をネラはした。さもそれが当然かのように。他の者達はどうか見ると全員が何故か満足気だった。

正直俺はわかりきった問いかけをしたが帰ってきたのは絶対に有り得ない返答だった。

これは認めざる終えない。ユノという一人の人間が複数人の他人に必要とされていることを。今彼女達は仲間のために死ねと言われたらきっと死ぬだろう。

そういうのは漫画や本だけで良いんだがな。

正直俺も甘いなと思いながら彼女達の願いに返答をする。


「分かったお前たちの提案を聞いてやる」

「ありがとうございます」

「だが条件が二つある、一つはネラ、もちろんネラだけじゃないが今後さっきのような交換条件はなしだ。二つ目はもしユノに問題があったら必ず最後まで解決することだ、ちなみに俺のことは頼っても頼らなくてもいいこの条件がのめるか」


俺の条件に対してネラだけではなくノア、ルシア、ズサが覚悟を決めた、されど笑顔で大きく返事をするのだった。

彼女達との喧嘩は一時休戦、このまま時間と共に解決してくれるだろう。

そんな事を思いながら俺は面白い奴らと出会えたと思い内心喜んでいた。

そうして俺は朝の食事のために準備に取り掛かる。


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