廃工場での喧嘩②
「論理的。だけどユノは此処にいる私達と一緒にいた」
「それは類は友を呼ぶ、もしくは同じ穴のムジナとでも言いたいのか」
「そう」
確かにユノの自身こいつらとつるんでいたと考えるとそうかも知れない。
けれどだからといってそれはユノの身の回りが危険であるという証明にはならない。
そんな事は分かっているのかズサは苦し紛れのような顔をしていた。
「勘違いしてると悪いから最初に言って置く、俺はユノの事なんか心底どうでもいい」
「な.........貴方は大切な人が困っている時に助けてあげないんですか!」
ネラが意味の無い戯言を口にする。
それに対して俺はもう幾度となく悩み、見つけた一つの到達点を言葉にする。
俺自身、人の大切さなんてものはもうとっくの昔に忘れてしまっていた。
「大切な人なんて馬鹿正直にいるとでも思ってるのか。もしいるとしたら自分自身以外いないだろ。逆に自分が死んでも良い人がいるならそいつは大馬鹿者だな」
「貴方は人を理解できない人間のクズ」
ああなんとでも言ってもらって構わない。
人なんてどんなに時間があっても理解できないものの集まりだ。
実際に俺の考えが世間一般に通用しないことは分かりきっている。
だが、それを理解した上で綺麗事や戯言を言ってる奴らよりはいくぶんかましだろう。
どんぐりの背比べと変わらないのは理解しているが。
「結局ユノを助けに行かないってことでいいの」
「あぁ、それでいいぞルシア」
「ほんとに救えないね」
そんな事を言われ俺は何を言うでもなく。
「元々こんな性格じゃなかったらホームレスなんてやってねーよ」
「それもそっか」
俺の力を知らない彼女達は今の返答で呆れたのか失望したのかは分からないがそれから話をしてこなくなった。
まるで2日前に逆戻りだな、ユノがいない事を除けばだが。
2日前と違い一つの場所だけ空間に穴が出来たかのようにぽっかり空いている。
彼女達はユノを家から引き戻すまでこの隙間を空けて置くつもりなのだろうか。
そもそもユノ自身が危険かどうかはわからないが。
「......」
気まずくなった俺は廃工場の扉へと向かい扉を出る。
そしてお腹がへった事に気付いたので近くのコンビニで何かを買いに向かった。
付近のコンビニまで歩いている途中後ろから誰かが歩いて来ていいた。
別に興味は無いが少し気になり後ろをむこうとすると足音は止まり歩いてきていた者は物陰に隠れてしまった。
恐らく俺の事を監視するための尾行だろう。
喧嘩中でも当初の目的は忘れていないようで少し関心した。
さっさと忘れてほしいものだが。
害は与えてこなさそうなので放おって置くことにする。
コンビニに入って外に戻ってくると尾行をしていたであろうズサが電柱の横に立っていた。
「お前ずっと待ってたのか」
「うん」
俺がコンビニ入って15分ぐらい立っていたので少なくとも彼女は15分ぐらい外で待っていたことになる。
「なんであんな事を言ったの」
「あんな事とは?」
「しらばっくれないで、あえて私達に喧嘩を売っていたでしょ」
歩きながら帰っていると彼女はそんな事を言ってきた。
どうやら彼女にはバレていたようだ。
あの状況で俺が言った事は全て本音だが別の意図もあった。
「確かにあれはわざとやったな」
「なんで」
「何でって簡単だ、あのままの雰囲気だったらお前ら何かをしでだすか分かったもんじゃないからな。あえてヘイトを俺に向けて変なことをしないようにしただけだ」
「そう、でもあんなやり方じゃなくても良かったはず」
「あれが一番手っ取り早かったんだよ」
そう、あれが一番手っ取り早かった。
それに俺はあんな立ち回りしかできないからな。
だがいつまでもさっきのような立ち回りをしていたらいくら心身が強くてもがたが来るのは分かっている。だから他の立ち回りを考えたいがそもそもあんな事態になることはこれからも少ないだろうから考えても忘れていそうなので意味は無い。
「体には気を付けて。他生の縁だろうけどそれで貴方が傷つくのは違うから」
「お...おう」
意外とズサは俺の体を気遣ってくれていることに感激を覚えつつ何故ズサが尾行役なのか聞いてみることにした。
「そういえば何でお前が尾行役なんだ」
「尾行じゃない、監視役。誰も行きたがらないから私が来た。それに聞きたい事もあったし」
聞きたい事とは恐らくさっきの件の事だろう。
そんなやり取りをズサとしながら廃工場の扉までたどり着くと何故か扉が開けられないようになっていた。
なのでとりあえず扉を4回ノックする。
「誰ですか」
「俺とズサだ」
「そうですか」
扉の内側から聞こえてきたのはネラの声だった。
そうして待っているとズサがちょうど通れるくらいに扉が開いた。
もちろん俺は通れない大きさである。
「おい、これじゃ中に入れないぞ」
「はい、元からズサ以外通す気はありません」
「おいおい」
「ズサ早く入って」
「ん」
そう言ってズサは扉の内側へ行ってしまった。
薄情な奴め、もともとそんなに関係ないけど。
しかし何故俺は通さないのか聞いてみる。
「なんでズサだけなんだ」
「人の心を理解しようとしない人は通しません。そこの雑草の上ででっも寝たらどうですか」
「子どもか」
「はい、今16歳ですから子どもですよ」
「そういう事を言ってるわけじゃないんだが」
そこから声が止んでしまったので仕方なく俺は廃工場を囲っている塀のそばに寄りかかる。
夜は冷え込むので少し寒いがこれぐらいだったら問題は無いだろう。
明日の朝起きた時は大変だな。
そんな事を思いながら俺はゆっくりとまぶたを下ろすのだった。
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