姉という存在

妙な胸騒ぎを覚えた俺はユノ捜索を開始する。

別に家と家の隙間や裏路地に行って探すというものではない。

自分の頭にマップを作成してユノの思考をトレースしてどこに行くかを考える。

だがあってから約二日しか経っていないから上手く思考のトレースができない。


「関、何やってるの探してよ」

「ルシア、今頭の中でユノの行きそうな場所を探してるんだ、少し静かにしてくれ」

「そんな事できるの」

「あぁ、だがあってまだ少ししかたってないから手こずってるんだがな」

「それなら意味ないじゃん。体を動かしてよ」

「あいあい」


彼女言葉を受け流しながら思考を続ける。


裏路地に隠れたとしても俺達にすぐ見つけられる可能性がある、それにユノ自身他人に恐怖の感情を持っているから人の目に当たりやすい裏路地はなし。ここから近い公園はもう遅い時間だから人の目には止まりにくい、だがここから一番近い公園でも二キロはある、此処まで走ってきたユノはもう二キロは走れないだろう。

そうなってくるといよいよ手詰まりになってきた。

そこでふと考えから除外していた場所が浮かび上がってくる。

だが、その場所は恐らく最もユノが過ごしにくい場所の一つでもあるはずだ。

なので俺は冗談のように口を開く。


「もしかたらユノは家に帰ったじゃないのか」


その言葉に4人は目を細めて俺へと目線をあわせる。

そうしてネラが、ルシアが、ノアが、ズサが、


「「「「それだけはありえない」」」」

「そうか、冗談だよ」

「冗談にしては下手」

「言うな」


やはり全員に否定されてしまった。

元からありえないと分かっていたつもりだが数%の確率でありえるかもしれないと思ってしまった。

ズサに至っては冗談にすら苦言を呈されるしまつだ。

だがこれでいよいよユノの行き場所がわからなくなった。


「だから、からだ動かしてよ考えてばっかいないでさ」

「分かったよ」


そう言って俺は彼女達のように捜索を初めた。



捜索してからどれくらいたっただろうか。

時計を見ると7時55分を示していた、つまり約1時間ほどユノを探していた事になる。

そろそろ疲れてきたので休もうかと思い4人に声をかけると。


「なぁ、もう遅いから探すのは明日にしないか」

「今何時」

「もうすぐ8時だ」

「なら、関さんは帰って良いですよ。私は此処に残って探しますから」

「何言ってるの、僕も残るよそもそも変える場所なんて無いし」

「私も」

「左に同じ」


どうやら彼女達は残って探すようなので俺は監視が取れてラッキーと思いながら帰ろうと後ろを向いた時声がかけられた。


「少し良いですか」


恐らく女性であり俺も含めて声をかけられたようだった。

腰を落として少し警戒をしながら振り返る。

そこには恐らく大学1年生ほどの女性が立っていた。


「ここらへんでハンカチを見ませんでしたか」


ハンカチそれはユノが持っていたはずである物の事を言っているのだろう。

だがこの女性がユノとどのような関わりを持っているかわからないのでしらない、だから俺は。


「ざんね「これですか」


言葉が遮られてしまった。相手のことがわからないから知らないと言いたかったがそれはどうやら叶わないようだ。


「うんそれ、ありがとう」

「いいえ」


その女性は安心したのか心からからの言葉をネラに放った。

だけどこれだけで会話を終わらすのは損なのである言葉を女性に言う。


「ユノ..いや、志乃の事を知っているか」


時計を確認すると針は8時2分を指していた。

話をする時間はたっぷりあるので一安心したところで彼女は。


「志乃のことなら私の妹だけど」


志乃が妹ということはつまり彼女は姉だろう。

にしてもユノには姉がいたのかと少し驚く、あいつの過去と今に何があったのかは興味はないが話を聞いているだけならいい暇つぶしになる。

もちろん他の奴らもだが。


「すみませんがお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」


ネラがユノの姉に名前を聞く。

確かに名前を知っていたほうが便利なので注意をして名前を聞く。


「私の名前は雪羅春だけど」


雪羅春(ゆきらはる)という名前のユノ姉は俺達に質問を問いかける。


「ていうか君たちは志乃のなんなの」


少し相手を威嚇しているのか雪羅春は音程が半音下がった声でユノとの関係を聞いてきた。


「そこの男を除いて私達はユノ友達です」

「へぇ、志乃ちゃんのお友達ね」


ズサの言葉に含みを入れながらユノの姉春は言葉を返した。

そして目線が俺に向けられる。

何で俺は除外したんだよ、答えるのが面倒だと思いながら言葉を発す。


「俺は志乃の、志乃の、俺は志乃の何なんだ?」


俺の疑問に対してその場のただ一人を除き全員がこめかみに指を当てる。

どうやら呆れられているらしい。


「そんなのは君しか知らないよ」


とこめかみに手を当てず少し笑いをこらえながら俺の問に対する解を与えてくれたのはユノの姉である春だった。

今のどこに呆れる要素があるんだと思い首をかしげながら考える。

そして最終的に俺の出した答えは。


「奇妙な知り合いだな」

「奇妙な知り合い」


春は俺の言葉を復唱すると俺に目線を再び向けてある言葉を放つ。


「面白いね君、外での志乃ちゃんのことこの春さんに教えてよ」


そう言って彼女は俺に獲物を見つけた獣の視線をぶつけるのだった。

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