第8話 回想①
橘は、家で酒を飲んでいた。ひたすら、タバコを吸い、抗酒剤であるノックビンを服薬しながら。時には昼夜逆転することもあった。抗酒剤を服薬し、酒を飲むと気づけば寝ていることが多い。飲んではいけないと思いつつも、飲んでしまうのだ。完全に負のループに入っていた。昼間に飲んでそのまま眠ってしまい、夜に起きる。そして、明け方までまた飲酒するという生活が続いていた。橘は限界であった。精神的にも、酒のせいでテンションがわからなくなっていた。食事もまともにとっていない。持病である、統合失調症のせいなのか、アルコールのせいなのか。橘は、限界を超え、警察に電話し、警察が行政と連携を取り、そのまま入院する手配をしてもらうことになった。入院する病院は過去に入院したことのある、南辰病院であった。病院の受付で事務手続きをし、病室に入ると、一気に安心感が出てきた。
「これで、ちょっとは一安心できるな…」
南辰病院の病棟を歩いてみる。廊下があり、ちょうど病棟の真ん中くらいにデイルームがある。こうして、橘の長い入院生活が幕を開けたのであった。橘は、初めて入院することになったときのことを、毎日のように考えていた。まるで、超常現象に遭遇したような感じである。それを考えることは、とてつもなく大きなジグソーパズルのピースを一つ一つ探すような感じで、果てしない作業であった。あの時の感覚を何と言って表現すればよいのかわからない。知り合いに説明しようとしても、”妄想””幻覚”の一言で片づけられてしまう。しかし、体験した本人からすれば、妄想も幻覚も感じている以上、主観的現実である。
「あの出来事は…そう…まるで、何か大きなことをやり遂げたような達成感、それでいて、この世の支配者になったような感じ…」
橘は、この世界には何か絶対的な支配者がいるような気がしていた。それが何なのかわからない。これを医者や看護師に説明しようとしてもなんといっていいのかわからずに困っていたのであった。橘は、病院内をひたすら歩いていたのであった。考えるときは、歩いていた方が頭がすっきりするのであるが、最初の入院体験で多くの人たちが、廊下を行ったり来たりと、歩き回っていたのである。橘は、歩くという行為に何らかの意味があるのではないかと感じ取っていたのであった。橘は過去に、この病院に興味深い漫画がおかれており、それを読んでいた。その物語の結末としては、実はこの世界が、シミュレーションゲームの世界であったというオチである。この、漫画が何かのヒントを言っているような気がしており、気になっていた。こうして、一か月ほどは、ひたすら、この現実世界のことを考えていたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます