第2話 追放もしてもらえない
悲しいことだ。こいつらのためにどれだけのことをしてきたと思っているのか。それを考えだしたらそれこそキリが無くなってくる。だがどうでもよくなってきた。
こうして他の全員の面でも見てしまえば凄い納得はした。あぁ本気か。
「本気なのかよ」
「あぁ本気だ」
この無口なサブリーダーさえも口を開いてくるなんて僕の能力によっぽどの不満を懐いていたらしい。それでいいさ。そんながっつりと重量級の武器ばかりを揃えているような着瘦せする筋肉馬鹿なんてにでも関わっていられるか。
一応はハイドラにへと意識を向けてみるがそこではただ仏頂面でもして立っているだけの姿があるのみ。他にいうことなどもないらしいというか。
「そうかい、好きにしてくれ。僕はこの街では君らから助力を乞うてくるまで参加はしないし、乞うてきたところで僕の気分で参加をしないというのは覚えてくれ給えよ
さ」
そこまで告げてしまってすぐさま部屋から飛び出していってしまう
そして部屋に残されてしまった四人はただ言葉を発せずにいる状態。
「なぁ、いきなり性急過ぎたかな」
「それは当然だ。流石に怒らずにいられるもんでもない。その立場に立ってみれば誰だって理解する。荷物持ちやら雑用を散々押し付けておいていきなり留守番を言い渡して激昂しない奴なんているはずもない。そんな奴がいるとすれば、それはただの根性なしだよ」
「………………どうした」
「いや、お前がそこまで喋ることがあるんだと驚いただけ」
ぼちぼち付き合いも長くなるリーダーのアルトリアも驚くほどには喋った気がしたが、無口なのなんてきっと気のせいな気がしてくること不思議なこと。
「いいのか。弾除け一つでもなければ一瞬で瓦解するような」
「いつまでも
「このダンジョンくらいあいつなしでクリアしてみせなければあいつの近くになんていられるはずもない」
拳を強く握ってしまっているせいで手元からぽたぽたと出血をする始末。ダラダラと垂れ流されているというのにそれに気づかない様子のアルトリア。
「出血してるよ」
「あ、あぁ」
ハイドラに指摘されてようやく掌を抑え込んで出血を強引に止めるという暴挙をするリーダー。その掌に送る眼差しというのも誰とも知れない他人が見ればかなり物憂げに感じることだろう。
「これも
そして日付が一つ変わった昼。
「………………あぁなんもすることがない」
つまらない景色だ。チンピラみたいな冒険者がこちらを振り返ればわざとらしくも嘲笑ってくるのはお世辞にでも居心地がいいとは言えない。
冒険者協会にて冒険者が居座る理由なんて決まり切ったこと。情報交換でも目的としているのか、それともすることがなくて暇で呑んだくれているのかのどちらかだろう。それで
「そんなに呑んでいたら体を壊しますよ」
ソルクがやってきて声をかけてきた。
「業務中に声をかけてくるってことは邪魔だから退いてくれってことでッ?」
そこで差し出されてくる一枚の紙切れ。依頼書か。基本的に掲示板に張り出されているところから取っていってカウンターにまで持っていって手続きをして契約成立となる。その分で下手に失敗をするのも評判とか成果分が下がっていく仕組み。それは実力不足であったという評価が冷酷に下されるのがほとんど。
詐欺などをすれば協会とか、そもそも社会からの信頼を失う。協会規定とその関わることになった国の法律によって裁かれるわけだ。犯罪はいけませんから。人道に悖ることをしないようにするのは道徳や倫理の問題だ。
それこそ常識とはかその環境によって大きく違うもんですだが。
この差し出されていた依頼書を素直に受け取っていった
「え~と、母の看病に氷が欲しいのですが氷なんてこの街では高くて用意が出来ません。そのために氷を出せる魔法使いに付きっ切りで氷を出し続けて欲しいのですとか………………正気ですかこの内容。報酬の部分が明らかに氷を用意するよりも高くついているような」
「あの、この街の名前って知ってますよね」
「
「………………はい」
「ちょっとまって。今何か言い淀みましたよね」
目の前にいる受付嬢を相手に問い詰めていこうとはしたのだが、なんか周りにいる人たちから放たれる圧が凄い。というか怖い。まるで娘に近づく変な羽虫を排除するかの如く………………ショットガンやら斧やらに手をかけている者達の気配も感じている。
さては何かあるなと思っていても追及できないこのもどかしさはなんだろうか。観光客向けの紹介では表層しか載っていない。だが
雑にランクの分かれていた昔は贔屓とかもあったのだろう。今もないとは言い切れない。そして冒険者協会はというかどこの協会もランクの過大偽称は明らかな規約違反だ。低く詐称するのはいいのかと問われればよくはないのだろう。だが触らぬ神に祟りなしという言葉が異国にあるらしいがそれに従えば下手に手を出せない。
それこそ本当に神だったら祟りが飛んでくる危険がある。なればそういうテイで扱うのが最善だ。何せ当人がそのつもりだから。
「どこか不自然というか曰くつきなので塩漬けになっている依頼なんですよ。アルトリアが率いるパーティに所属する
まぁダンジョンに潜るよりは命の危険がなさそうで楽か。とか呑気に構えて安請け合いしてしまった僕はすぐさま後悔する。
「なんて廃墟だ」
冒険者協会とかいっても、実態なんて雑用請負の派遣組合だ。魔物専門の傭兵部隊とか言われてしまっても反論なんざするのは難しい。
国とか街への所属とかはあれどそれも纏めて協会がやってくれる。転居とか滞在の場所を隠すのには向いていないほどには事務作業で使う情報量は膨大だってことだ。
魔法って便利ですねとは常日頃から思う。なんで自分はそれを己のこの身体で十全に扱えないのかという不甲斐なさは感じるが。
閑話休題
目の前へとあるこの廃墟というのは、熱で建材に使われている木々が腐り始めているからこその事象か。それを思えば建て替えでもしてやりたいとは思うが勝手にやるわけにもいかない。
そこで廃墟からひょっこりとやってくる子供の姿があった。
「あの、貴方が依頼を受けてくれた冒険者ですか」
「………………はい。そうですね」
「お母さんが大変なんです。ずっと魘されていて」
それで腕を掴まれて有無を言わさずに家に連れ込まれる
そして連れ込まれた先にてみた光景というのには目を疑った。
「んあ?僕は夢でも見ているのかなぁ」
病床に臥せっている母の看病か治療をとのことだったはずだが。あぁまずその依頼内容でおかしいと思うべきだったんだ。治療とかであれば医療協会に駆け込んでいくのが常套のはずだ。それでそのまま医療協会に委ねることをしなかったということはそういうことだ。匙を投げてしまったわけだ。そしてどうせ商人協会とかあちこちにでも助けを求めてきたんだろう。最後から知らないが冒険者協会にまで来てまで荒くれ者がいる中でしっかりと書類の記入をしてきて。
確かにこれは達成は困難など承知しているので失敗しても成績は落としてあげませんからとソルクがいうわけだ。その分、前金は出せませんがと告げてくるあたり真面目なのかシビアなのかと思うが。それは損得勘定の分だろう。
ベッドで横になっているこの子供の母と思われる人物は見つけた。あぁ、見つけたんだ。そこにいる彼女が問題なんだ。寝込んでいるのは間違っていない。それで天井にへと手を伸ばしていこうとするのもそれだけ深刻なんだろう。その瘦せこけた腕などからもそれは窺える。何が問題かといえば、それは単純なこと。
女性の身体から煙を噴かせているのだ。言葉も出ない。人間から煙を噴き出してくるのは、どれだけ熱を持っているのか。汗を掻いてそれが蒸発しているのかとも心配する。それはその子供を同様なんだろう。
「汗を拭きます。綺麗なタオルを。出来れば濡らしたので」
そんなものがあるとも分からないので持ってきた甲斐はあったと思う。バックから取り出したタオルで丁寧に拭いていこうとする………………わけにもいかない。
何せ目の前にいる女性の体温がおかしなことになってしまっている。水銀で温度を測る器具を取り出してくる。それを女性にへと近づけてしまえばガラスが砕けてポタポタと水銀が落ちてしまう。それがどれだけ危険なことなのか。この水銀というのが一瞬で蒸発してしまうほどの熱量。それを感じてしまえば触れることも躊躇われるのだが。
(………………………………ん?)
そこでまさかと思ったことがある。確か井戸が近くにあったはずだ。ここまで来るのに見かけていた。
「これ借ります」
足元で転がっていたバケツ一つを取っていってその井戸まで走っていく。それで水を汲み上げていって戻ってくれば変わらずに煙が噴き上げている。この部屋の中で既に水を汲んできてびっしゃりとその水をぶっかけてきている子供の姿が痛々しいように思えてくるのは間違いではないはずだ。
そしてそのぶっかけた水が蒸発してしまうところからみて思うことがある。
(よくもまぁ周囲の物品が壊れてしまわないものだ。これって魔術的な解釈が求められるんじゃあ)
そもそもがここまでやって冒険者協会やら国の騎士団やらから討伐をまでしてこなかっただけおかしいと気づくべきなんだ。面倒ごとに関わりなくないのか。それともここから放置するくらい問題ないと判断されたわけか。とんでもない面倒ごとではないかこれは。
「社会からも見捨てられたとか。どこでこんな病気をもらってきたのか」
何気に
タオルが燃えてしまわないのかって?既に新品を三枚燃やした後だよ。気を付けていなければ一瞬で燃えてくることを思えば本当に気の抜けない作業だ。
氷の生成や操作という炎属性を得意としている
それはそれとして、冷たい冷気を己の躰の表面にへと纏わせていくことをしてタオルでこの女性の躰を拭いていくことをする。そうしていけば嫌な予感というのが続々と、危険な気配というのがワラワラと湧き上がってきている。
「………………流石に早くないか」
うっかり思わずつぶやいてしまった
あぁそういうことなのか。まさかそういうことなのか。嘘か誠かを何度も行うわけではないはずだ。
そして日が沈んだ後も身体を冷やすことをしてしまえば変化が表れてきた。そこで瞑られていた瞼というのがどこか動き出したようにも思えたのは気のせいか。
この家に泊まっていくのは既に許可をもらってしまっている。
「本当に何から何までありがとうございます」
「僕は偶然居合わせただけ。ただの運でしかない。運命だと呼ばれてしまうのは気に入らないが」
「なぜですか。私とあなたとの出会いは運命だと感じるこれはいけないことなんですか。この出会いにまで感動を覚えるなんて悪いことなんですか」
圧が強いな。
「悪い。勘違いをされては迷惑だが僕はこれでも仕事で来ているんだ。仕事が終われば報酬を受け取ってサヨナラ。そこで縁なんて次もない」
それでこのまま寝ずの番を決めていくことを約束はしている。
………………井戸から温い水でも持ってきてはそれをぶっかけることをして必死になってでも身体を冷やすことを繰り返しているのはどれだけの体力を消費してくるのか。いくら夜になれば外気温も冷えてくれるとはいえ、それでこの治安が悪く、騒音ばかりの地域では寝心地も悪いだろう。それをどれだけの期間続けているのか。
未だ幼い子供がやることでも………………いやそもそも子供がこんなところに縛り付けられているのは問題だ。この時間があれば子供はどれだけのことが出来たのだろうか。それで親に献身的な子供は、親の存在が害悪になっている可能性なのを疑いましょうか。
「だからこの子供が普段日常でどれだけのことをしているのかなんて」
そしてその子供の方にでも振り向いてみれば見えてくる光景など、ただ寝入ってしまっているだけの姿。しかも床で。いやアンタはちゃんと寝てくださいよ。
ということはこちらのためにソファーを開けられてしまっているわけか。それは申し訳ないことをした。僕は全力でここで彼女の躰を冷やし続けるつもりなんだが。
「寝ずの番というのも面子が違えば面白い」
まぁそんなんで本当に寝ずの番なんていうのを続けてしまえば倒れてしまいそうになるのは当然の理だ。朝日があがって陽として窓から明かりをもってきて照らしてくれるというのを感じればようやく日付が変わったのだと感じるわけだ。まさかここまで深刻だとは思っていなかった。
昨日のことが怒涛のように思い出される。といってもただ街をふらついていて冒険者協会でノンアルコール飲料でも呑んでいて依頼を出されてそれをなんか特に抵抗することなく受けただけ。そこで依頼主というのもかなり凄い強いというかなぁ。
まず料理はちゃんとできる方で安心した。だがそれでも意図せずに色が紫色になるのは間違っていると思う。この世の法則がだ。それでも味はおかしくないから視覚情報として振られているパラメータが可笑しいのだろうと強引に納得した。
だが特段おかしなことなんて後はそれくらいなのか。それからもずっと魔法で女性の躰を冷やすことに専念していたわけだ。いくら夜は落ち着いてくれると聞いていたとはいえそれで気を緩めるわけにもいかない。丁寧に一気に下げないようにとは気を付けたつもりだ。
急な変化で肉体を崩壊させるのが一番危ないんだから。
(有効距離とかに問題はあれど出力の維持というのはやれるつもりだったが)
なんとか無事に日を越せてよかったと思う。まだお子さんは寝ているが多分この調子でやっていけば常人の平熱には戻ってくれるはずだ。まさかこの熱量のままに平然と動き出すはずもあるまい。
「依頼を引き受けてしまった以上は付きっきりで経過も含めてみていくべきなんだろうが」
そもそもが僕は治癒術式とかを特段使えるわけでもない。多分そういう者が傍にいて状態を計ってくれたらどれだけ安心して作業が出来たかのか。
魔力補給のための凝縮された結晶はそれなりに多く買い込んでいたが魔力に関しては予想よりは減っていないと実感する。だがそれと同時にここから先の長いことだと頭を抱えたくなるのも事実。
そしてまた彼女の瞼が動いたように見える。なんだろうか。この何かずっとしばらく気にしないことにしたら大変なことを見逃したみたいな。だがそれは普通気づくわけないじゃないかということを。
彼女の口が軽く開く。一瞬だか瞼が開いたように見えた。強い呼吸の音というのが確かに聴こえてくる。強く見開いたかと思えばすぐさま閉じられる眼光。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンたたたち誰よッ⁉」
知らない誰かに呼ばれて必死にまでそれとは違う知らない不調な誰かを治してやろうと徹夜までしてみればだ、それで日が昇ってしばらくで目覚めてくれたのは流石に驚く。早すぎないかと。経過する状態からして少なくとも二徹はするつもりだったんだ。そこまでしなければ灼熱以上を発している躰なんて40℃以下になどなってくれるはずもない。というかこの街にいる限りずっと続けていこうかと悩んでいたほどなんだぞ。
それがどうしてこんなことになる。なんでこんな急に叫べるほどの声量が。えっとそこで他の違和感というのも、疑問も同時に上がってくる。彼女はこちらを見てたちといったか。どうして複数形になる。ここには僕と、他には彼女を母と呼ぶ幼い子供しかいないはずなんだがッ⁉
そして降ってくるのは確かに訓練を受けたナイフによる突きか。それがどこか咬み合わせの悪いような不自然で歪な動きに感じられるのはそういうことなんだろう。
「何がお母さんが大変なんですだよ。知らない他人扱いされているじゃないか」
「………………え?どういう」
ベッドから剥がしたばかりの彼女が元気そうなのがちょっと怖い。とか思えばすぐに意識を失ってくれるあたり流石の衰弱のほどだと思う。どうしてこれだけの体力を消耗していてこんな元気な姿を見せられるのか。情緒が可笑しいんじゃないのか。
えっと、試しに体温計でも当ててみれば41℃を越えて上がってはいかない様子だ。
これは………………軽く驚愕はする。それよりも目下の課題というのを解決するべきなんだろう。
「結婚詐欺師とかにしては若いとは思うが魔物がいる世界でそれを言ってしまったらどれもこれも否定されてしまうか」
「へへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへッ‼結婚詐欺師かぁ。まさか遺産を奪い取るためにここまでのことをしたなんて」
なんて醜悪な笑いだ。これがあの純朴な子供の面でやられると、こう心に来るものがあるなぁ。
「そもそもが依頼を出さなければ気づかれずに終わったはずだから」
「目撃者がいればそれで不自然なことはないよねぇ。国のだろうと民間のだろうと名簿管理なんてどこも細工とか偽装とか改竄とかは楽なもんだよ。特に天使みたいな超常の存在にしてみればさぁ‼」
どこまで喋ってくれるのか。はぁ、天使か。それはそれは。
「なんとも下級の使いッパシリの個体にいいように使われたことだなぁ」
確証があるわけではない。だがかなりの自信はある。
「ふざけたことをぬかしてッ!この愚僧のかけてきた時間を嘲笑うのかッ‼」
あぁなんて愚かなことだ。先ほどの、ナイフによる突きは奇襲であることも含めて一歩遅いだけで後は褒められることであった。そもそも遅くて当然。口を開けてから動き出せばそうもなる。
それに………………愚僧か。
「言うに事を欠いて愚僧だとか、とんだ宗教活動だな」
この子供の姿をした怪物をどうにかしなければいけないというのはわかった。どこからともなくナイフの入ったケースでも出してきてバラバラと足元に転がしてくるその行為の意味は置いておいてだ。
「これ以上愚僧を愚弄することなど許して堪るかッ」
速い。ナイフを握りしめて正確に
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