夏帆の気持ち
灯が注文にあたふたしてる間、先に席に着いた夏帆と莉愛の2人はポテトをつまみながら会話をしていた。
「ここのポテト美味しいよねぇ〜。
何本でもいけちゃわない〜?」
片手でポテトをとり、もう片手で甘いドリンクを飲む莉愛。
「……」
そんな莉愛の言葉を無視しながら、夏帆はドリンクを飲む。
「ちょっと夏帆っち〜。いくら灯っちがいないからって機嫌悪くしすぎじゃな〜い?もっとテンション上げてこーよ〜。」
「…話があるんでしょう?さっさと言いなさいよ。」
そんな夏帆の言葉に、いたずらを仕掛けた子供のような笑みを浮かべる莉愛。
「…なんの事〜?」
「惚けなくてもいいわ。私をこのカフェに誘った時点で、貴方が私に話がある事はわかっていたもの。」
「別に私は3人で仲良くお喋りしたいなぁ〜って思ってただけだよ?」
ケラケラと笑う莉愛に、夏帆は飲んでいたドリンクのカップを勢いよくテーブルに置く。
「それ以上話を逸らすなら、灯を連れて帰るわよ。」
「わかったわかった!話すから帰らないでよ〜。3人でカフェに来たかったのは本当なんだからさ〜。」
夏帆の言葉に、途端に慌てる莉愛。
そしてコホンとわざとらしく咳を吐いた後、口を開く。
「…灯っちってさ〜。すっごく可愛くない?」
「…はぁ?」
「夏帆っちなら当然なのかも知れないけどさ、
最近灯っちの人気急上昇してるんだよね。」
「目大きいし、鼻ちっちゃくて高いし、おっぱいもお尻も大きい。男子達にとってみれば、灯っちって凄くいい女なんだよね。
しかも性格もぽわぽわしてるじゃん?だから結構狙い付けられてるらしいんだよね。」
ガンッ!とテーブルに拳が叩きつけられる。
店内はかなりの客で賑わっており、誰も2人に反応する事は無かったが、2人の間の空気はかなり殺伐としている。
「お前、何が言いたいわけ?私の目の前で灯の事話して何がしたいの?」
射殺すような目を向けながら、莉愛にそう言う夏帆。そんな視線を受けながらも、莉愛は笑みを崩さない。
「ん〜?夏帆っちはいいのかな〜って。」
「は?」
「だから、夏帆っちは灯っちが他の奴に取られてもいいの?」
「それは…」
「灯っちは、夏帆っちの事気になるって言ってたよ?」
「なっ…!」
「嘘だと思う?なら、後ろ見てみたら?」
莉愛に言われて夏帆が後ろを向くと、そこには頬を少し膨らませた灯が不機嫌そうに2人を見ていた。
「灯…。」
「ね?あれって多分、私が夏帆っちの事独占してるのが嫌なんだろうね〜。」
まぁあんな顔で見られても可愛いだけなんだけどさ。そう言って莉愛はまたポテトをつまむ。
「…私に告白しろって言うの?」
カップを両手で包み込み、ゆらゆらと揺れているドリンクを眺める夏帆。
「ん〜?別にどっちでもいいよ?
私としては今の2人を見てるだけでも面白いから。」
「アンタ…趣味悪いわね。」
「そんな事ないって〜。」
そう言って笑いながら、莉愛は視線を灯に向ける。
「たださ。灯っちが勇気を出したから、私はもう片方の女の子の背中を押すかーって思っただけ。」
そんな莉愛の言葉に、夏帆は無言で莉愛の顔をじっと見つめ続ける。
いつもは飄々としている莉愛の表情が、その時だけは酷く真剣な物に見えた。
そこへ丁度、注文を終えた灯が莉愛達の元へやってくる。
「あれ?結構時間かかってたけど、注文したのそれだけ?」
「う、うん。
何だかこのカフェのメニューが結構独特でさ…。」
「も〜灯っち、そんなんだとすぐ時代遅れになっちゃうよ〜?」
「そ、そんなに…!?」
「冗談冗談〜」
そう言ってけらけら笑う莉愛。
「灯。ここ、座って。」
「うん。ありがとね、夏帆ちゃん。」
椅子を引いて、夏帆は灯を隣に座らせる。
そしてそのまま、ストローを使ってドリンクを飲む灯を眺める。集中して飲んでいるのか、灯は夏帆に見られている事に全く気付かない。
(綺麗な顔。)
莉愛の言っていた事。夏帆自身も理解していたつもりだったが、灯の容姿はかなり整っていると再度自覚する。
ぱっちりと開いた二重の目に、滑らかな曲線を描く、筋の通った鼻。
オレンジ色の照明でもはっきりと分かる程に血色の良い唇。どれもこれも、灯の容姿がかなりの物である事の証明だった。
(可愛い)
まるで吸い寄せられるように、夏帆は灯の髪にそっと手を触れる。
「か、夏帆ちゃん…?」
「へ?あ、ご、ごめんなさい!
何だか灯の髪を触りたくなってしまって…」
そ、そうなんだ…と言って夏帆の顔を見ながら
赤く染まった顔でドリンクを飲む灯。そんなふとした灯の表情に、夏帆の胸は大きく高鳴る。
「ちょっとちょっと〜。2人だけの空間に入るのやめてもらっていいですか〜?」
「あっ、ごめんね莉愛ちゃん!」
「そ、そうね…。」
さも怒ってますと言いたげに頬を膨らませて言う莉愛。その後、3人は学校の事や私生活の事を話しながらカフェでの時間を潰していった。
「それじゃあ、またね、夏帆ちゃん。」
「ええ、また来週。」
カフェを後にし、夏帆は灯を家まで見送った後自分も家に帰る。
沈んでいく夕陽に背を向けて歩き続け、夏帆も自身の家にたどり着く。
「はぁ…。」
玄関を開け、リビングを抜けて自身の部屋に入る。カバンを床に置いた後、夏帆はベッドに飛び込むように体を預ける。
「好き…なのよね」
恐らく、初めて自分に話しかけてくれたあの日から、夏帆は灯の事が好きだった。けどそれを言葉にしようとすると、いつも喉の奥に引っかかって出て来なかった。
「…」
莉愛の言葉が頭によぎり、脇に置いてあった、灯と共に行った水族館で買ったぬいぐるみを抱きしめる。
大丈夫だ。灯の部屋に入ってご飯まで作っている。自分が1番灯と親しいはず。
そう言って心を慰めれば慰めるほど、夏帆は自信が無くなるのを実感する。
けれど、誰にも取られたくない。灯の色んな表情も、全部自分が独占したい。
(こんな時、姉さんならどうするのかしら)
重たくなっていく瞼。ぬいぐるみを抱きしめる力も弱くなり、段々と意識が遠のいていく。
そんな中で夏帆は自分が1番忌み嫌っている相手の事を想像しながら、自分だけの世界に没入していった。
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