おしゃれなカフェの注文はもはや呪文
「疲れたぁ〜…」
キーンコーンカーンコーン。ホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴り、私はぐでーっと体を机に倒す。
今日は散々な1日だった。朝、英語のワークを終わらせて一安心ついたと思ったら、今度は数学や世界史の問題集の提出もあることに気付いた。
何とか別の授業の時間に内職しまくったり、休み時間を捧げて終わらせた。
それだけなら良かったのに、何故か国語の先生が今日は休みだった。そして、4時間目だけだった体育が2時間連続で行われ、どっちの時間も持久走をやらされる羽目になった。
おかげで楽しみにしてた夏帆ちゃんが作ってくれたお弁当も全然食べられなかった。申し訳なく思い謝ると、何故か夏帆ちゃんは嬉しそうにしていたけど。
「全然大丈夫よ、灯。
灯が残してしまったご飯は全て私が食べ切るから!」
そう言ってとても幸せそうに私が残したご飯を食べていた夏帆ちゃん。途中、莉愛ちゃんが変態さんだー、何て言って揶揄ってたのが面白かったな。
なにはともあれ、何とか今日の学校を乗り切った。早く家に帰って休みたいな。そう思いカバンを手に取ると莉愛ちゃんに声を掛けられる。
おそらく、遊びの誘いだろう。
「岬っち放課後暇ー?」
「うん。けど、今日はもう体力ないからあんまり遊べないかも。」
「全然大丈夫!最近駅前におしゃれなカフェ出来たからさー。一緒に行こ?」
確かテレビにも特集されてた奴だよね。商業施設が詰め込まれてる駅前に、一軒だけ木造のカフェがあるって事で取り上げられてた気がする。
「それってあの木造のとこ?」
「そーそー。私2、3回行ったんだけど、どのドリンクも結構美味しくてさー。
岬っちと夏帆っちと一緒に行きたくて。」
「うん、いいよ。3人で行こっか。」
莉愛ちゃんの言葉はいつもストレートだ。だから、莉愛ちゃんと話すのは余計な事を考えなくて済むから楽しい。
早速2人で夏帆ちゃんの席へ行き、遊びの誘いをする。てっきり2つ返事でOKしてくれるのかと思いきや、渋い顔で否定される。
「駄目よ。今日の殺人的時間割をもう忘れたの?ただでさえ体力の無い灯にバカみたいに走らせて…
それに、今日の灯はかなり頭も働かせていたわ。ヘトヘトの灯にこれ以上無理はさせられない。」
「な、成程…。」
凄く心配してくれているのは伝わるんだけど、別にカフェに行くだけだよね?それともそのカフェでは待ち時間に石臼とか回すのかな?
「大丈夫だって〜。別に石臼とか回すわけじゃないんだからさ〜。甘い物食べたり飲んだりするんだからむしろ体力回復すると思うよ?」
夏帆ちゃんの言葉に、莉愛ちゃんが私と全く同じ事を言って反論する。多分、こう言う所が私と莉愛ちゃんの相性が良い理由なんだろうな。
「駄目よ。駅前のカフェなんて。学校から10分も歩くじゃない。帰宅ラッシュにもぶつかるし、もし灯に何かあれば私では責任を取れないわ。」
「かぁ〜。流石の私も夏帆っちの過保護っぷりには参るなぁ〜。
岬っち、何とか言ってやって〜。」
莉愛ちゃんが肩を竦めて私にバトンタッチする。正直、夏帆ちゃんの申し出はありがたいけど今の私は駅前の新しいカフェに行きたいから。
「夏帆ちゃん…。」
「灯なら、わかってくれるわよね?」
真剣な面持ちで私の顔を見つめる夏帆ちゃんに近づいて、そっと手を両手で包み込む。
「お願い。私、夏帆ちゃんとどうしても駅前のカフェに行きたいなぁ…。」
「……っ!!!」
正直媚びてるみたいで恥ずかしいけど、これもカフェに行くため。じっと上目遣いで夏帆ちゃんの顔を見つめると、夏帆ちゃんは大きく目を見開いて私が包んでいた両手から手を離す。
「え?」
そして、カバンの中からスマホを取り出して私にカメラを向ける。
パシャパシャと撮影音が教室内に響き、ようやく私は夏帆ちゃんの行動を止めた。
「夏帆ちゃん!?何やってるの!」
「ごめんなさい。さっきの灯、あまりにもシャッターチャンスだったから…」
申し訳なさそうに言う夏帆ちゃん。ていうかシャッターチャンスって何!写真撮っていいなんて一言も言ってないよ!
一通り写真を眺めた後、夏帆ちゃんはふぅとため息を付いて私達の方を見る。
ため息つきたいのは私なんだけどなぁ。
「仕方ないわね。灯の激エモ写真に免じて、カフェに行く事を許可します。」
「やったぁ〜。ナイス岬っち!」
「全然ナイスじゃ無いよぉ…。」
何だか今日の私、もしかして結構不運かも?そんな事をおもいながら私達3人は駅前のカフェに向かう為教室を出て行った。
☆
「ここが新しく出来たカフェだよ〜。」
「やっと着いたね…」
体育を終えて少し時間が経ったからだろうか。逆に体が重くなり始めてしまい、駅前に行くだけでも相当体力を使ってしまった気がする。
「灯、大丈夫?」
「な、なんとか…」
夏帆ちゃんが心配そうな表情で私の背中を摩ってくれる。
「やっぱり今からでも帰った方が…」
「えー!?ちょい待ち!せっかくここまで来たんだから寄ってこーよー!」
夏帆ちゃんの提案に、莉愛ちゃんは結構大きな声で反論する。周りの帰宅途中の人達も驚いて見ているよ。
「でも灯が…」
「私は大丈夫だから。お店でゆっくりしたら直ぐ回復すると思うよ。」
「そーそー!ほら、早く入ろっ」
わくわくした顔つきの莉愛ちゃんに連れられて、私達はカフェの中に入る。
「わぁ…。」
店の中は新しく出来たからか、とても綺麗だ。
基本的には木材のみで構成されていて、オレンジ色の優しい光が店内を照らして包んでいる。
そこに、観葉植物が所々置かれていて緑もバッチリだ。駅前の慌ただしい雰囲気とは打って変わってこの店の中だけ時間がゆっくり流れてる見たい。
「ほら灯、早く注文しちゃいましょう。」
「う、うん。」
内装に身惚れていると、夏帆ちゃんが私の腕を引っ張って注文カウンターに運んでくれる。
「じゃあ私注文した後に席取ってくるね〜。」
そう言って莉愛ちゃんが注文し始める。成程、ショッピングモールの中に入っているフードコートみたいな感じなんだ。
(何飲もうかな。)
今は甘い物が欲しいから、抹茶ラテとかかな?
ドーナツとかもしあればそれも食べたいな。
そんな事を考えていると、丁度莉愛ちゃんの注文が聞こえてくる。
「えっと〜。SOのLサイズ下さい。」
「SOのL、ですね。」
「後、フライドポテトもお願いします!」
「え…?」
かしこまりました。そう言って店員さんは注文内容を打ち込んでお会計を始めて行く。
いや、SOって何?何かの暗号?
そんな注文の仕方始めて聞いた。え、もしかして最近のカフェとかって全部こう言う風な注文するのかな?だとしたらもう私どのカフェも入れなくなるんだけど…
「SOねぇ…あんな甘いの、よく飲めるわね。」
そう言って夏帆ちゃんも注文をしに行ってしまう。え、夏帆ちゃんは莉愛ちゃんが注文した商品分かるの?もしかしてここ来た事あるの?
やばい。どうしよう。内心少し焦っていると、夏帆ちゃんの注文も始まる。
「VRのMサイズ1つ下さい。」
「ぶ、VR…?」
「VRのM、ですね。以上でお決まりでしょうか?」
「はい。」
いやVRって何!?もうそれ飲み物じゃなくない!?機械か何かだよねそれ!
「やばい…何一つ分からない…」
どうやら、最近おしゃれなお店に行かなかったせいで私はもう時代遅れの女子高生になってしまったのかも知れない。
とうとう私の順番が回って来る。ごくりと唾を飲み込んで、まるで定期テストに臨むかのような固い表情で私は店員さんの前に立つ。
(それっぽい言葉を言わなくちゃ!)
メニュー表を見ても、おそらく何がどれなのか分からないと思う。だから一か八かの賭けだ。
にこやかに笑う店員さんに向けて、私は口を開く。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか?」
「えっと…HBを1つ…」
「はい?」
あ、終わった。すっごく恥ずかしい。
助けを求めて、席に座っている2人を見るも何やら話し合っていて全然私の方に気づいてくれない。
「…抹茶ラテとかってありますか?」
開き直った私は素直に飲みたい物を口にする。
だってしょうがないよね。分からないんだもん。
「はい、ございます。サイズはどれにしましょうか?」
「Mサイズでお願いします。」
いやあるんじゃん。最初からそう言えば良かったよ。
ドリンクを待つ間、恨めしい視線を夏帆ちゃんに送る。いつもはちらっと見るだけで私の方に振り向いてくれるのに、何故か今だけは真剣な表情で莉愛ちゃんと話している。それが何だか面白くなくて、少しだけ機嫌を悪くしてしまった。
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