学校生活は少し面倒だ
ガヤガヤと人の多い昇降口。私と夏帆ちゃんはそれぞれ靴を脱いで上履きを履き、教室へと向かう。
「今日は1時間目から英語かぁ〜。
あ!ワークやってない!」
何でこう言う事って学校に来てから気付くのかなぁ。家で気付いていれば間に合ったかも知れないのに。
折角いい天気でテンションも上がってたのに、これじゃ気分はだだ下がりだ。そう思っていると、夏帆ちゃんがニコニコ笑顔を見せながら私の顔を覗いてくる。
「安心して、灯。私のワーク見せてあげるから。ホームルーム中もやれば間に合うと思うわ。」
「夏帆ちゃん…!ありがとう!」
感極まって思わず夏帆ちゃんに抱きつく。夏帆ちゃんは私よりも10センチくらい大きいので、丁度私の顔は夏帆ちゃんの胸に埋まる。
「ああ…やっぱり灯の頭はいい匂いね。
私があげているシャンプーとトリートメントを使っているからかしら。いえ、これは灯の体から出る体臭そのものが素晴らしいと言う事だわ。だって首筋からも私が幸せになってしょうがないほどのいい匂いが醸し出されているんだもの。体臭を好ましいと感じると言う事は、文字通り体の相性がいいと言う事。つまり私と灯相性はバッチリ。現に灯が私に抱きついているのがその証拠ね」
「夏帆ちゃん?どうかした?」
ブツブツと、何やら高速で呟いている夏帆ちゃん。たまにこう言うスキンシップをすると、夏帆ちゃんは今みたいに高速で言葉を発し続けるようになる。
「いいえ。灯は今日も可愛いなって思っていただけよ。」
「そ、そう?ありがとね。
でも夏帆ちゃんも毎日すっごく美人だよ!」
キツめの顔で近寄り難い印象がある夏帆ちゃん。だけど、顔立ちはかなり整っていてすっごく美人だ。それこそ、毎月数回は告白される程度には男子達に人気らしい。
「夏帆ちゃんならイケメンの男子捕まえ放題だね!」
冗談めかしてそう言うと、夏帆ちゃんの顔が急に真顔になる。
「あんなの何人捕まえたってしょうがないわ。
それに、私の好きな人は男子じゃ無いもの。」
「え!?そ、そうだったんだ…!」
意外や意外。夏帆ちゃんの好きな人はどうやら男の子ではなく女の子だったようだ。
一体誰だろう?常に夏帆ちゃんと一緒にいるのに、私は夏帆ちゃんの好きな人の検討は全く付かなかった。
ウンウンと首を捻って考えていると、夏帆ちゃんが真顔で私の事をじーっと見つめている事に気づく。そして目が合うと、ふいっと視線を横に移される。
「夏帆ちゃん?どうかした?」
「…いいえ。鈍感なのか私に勇気が無いのか。
少しだけ考えていただけよ。
早く教室に向かいましょう。灯のワークを終わらせないといけないから。」
そ、そうだった。話が盛り上がって忘れちゃってたけど、私は英語のワークを移してもらうんだった。
ハッとして、私は急いで教室へ向かう。英語のワークは毎回置き勉しているので机の中に入っているはず。
「はい、ワーク。」
「ありがとう、夏帆ちゃん!」
夏帆ちゃんからワークを貰い、教室のドアを開けて自分の席に座る。机の中から英語のワークを取り出して広げ、夏帆ちゃんのワークに書いてある文字や数字を写していく。
「良し。ここまでやれば間に合うかな。」
答えを写す事およそ10分。粗方写し終わった私が一息つくと、教室のドアが開き、私の隣の机にドサッとカバンが置かれる。
音に反応して私が隣を見るとーー
「岬っち。おっはー」
「莉愛ちゃん、おはよう。」
私の隣人であり友達でもある伊藤莉愛ちゃんが登校していた。
莉愛ちゃんは金髪の髪に緩いウェーブをかけている、ギャルみたいな女の子。
正直最初見た時はあんまり私と相性良く無いかもな…なんて思ってたけど、いざ話して見るとものすごく話が盛り上がってしまった。
それ以降、私達は仲良く友達をやっている。
「岬っちは英語のワークやってんの?」
「うん。今日提出だから。莉愛ちゃんは終わった?」
「ん〜…多分配られた時に全部解いちゃったかな?数学とかも全部解いたし。」
「す、すごいね…」
失礼かも知れないけど、この見た目なのに莉愛ちゃんは物凄く頭が良い。夏帆ちゃんはそれが気に食わなくて、勉強面では莉愛ちゃんをライバル視している。
「あ、それよりこれ食べる?お腹空いてたからさっきコンビニで買って来たんだー。」
莉愛ちゃんは丸っこい唐揚げに爪楊枝を刺して私の口元に運んでくる。さっき朝ごはんを食べたはずなのに、いざ目の前に食べ物があるとどうしようもなく食べたくなってしまう。
「そ、それじゃあいただきますっ」
あーんと口を開けて食べようとした瞬間、スッと目の前にあった唐揚げが上の方へ引き上げられる。
「灯の口の中に爪楊枝が刺さったら、どうするの?」
視線を移すと、険しい顔をした夏帆ちゃんがそこにはいた。
「おはよー、夏帆っち。今日も相変わらずボディガードやってんねー。」
「質問に答えてくれるかしら?もし灯に爪楊枝が刺さったらどうするつもりだったの?」
そして険しい顔で、私が食べる筈だった唐揚げをパクっと口の中へ運ぶ夏帆ちゃん。
「あっ、私の唐揚げ…」
「爪楊枝くらい刺さったって問題ないって。
相変わらず過保護だなぁ〜。」
「当然よ。好きな人に傷ついて欲しくないと思うのは当たり前の感情でしょう?」
「えっ?」
思わず惚けた声が出る。今、夏帆ちゃんが好きな人に傷ついて欲しくないって言った?それってつまり…
じーっと夏帆ちゃんの顔を見ると、自分がさっき言った事を思い出したのかどんどん顔が真っ赤に染まっていく。そして、夏帆ちゃんと同じくらい私の顔も真っ赤だ。
「ぷっ、ちょー面白いんだけど!
やっぱり夏帆っち揶揄うのやめられないわ〜。」
夏帆ちゃんとじーっと目を合わせ続けていると、莉愛ちゃんの笑い声が聞こえて思わずハッとなる。
「夏帆っちは友達として好きって事でしょ?
岬っちウブすぎ〜。」
「…そ、そうよっ。人の事揶揄わないの!」
「あっ、そ、そうだよね!びっくりした…」
友達として、だよね。心の中で言い聞かせるようにもう一度呟く。でも、何でだろう。友達としてって言われて夏帆ちゃんが同調した時、少しだけ胸が苦しくなったな。
「と、とにかく。私はそろそろ戻るから。
灯も早くワーク終わらせなさい。」
「うん。頑張るね」
夏帆ちゃんはそう言って自分の席に戻って行く。私がワーク写しに取り掛かろうとすると、
莉愛ちゃんがニヤニヤした笑みを浮かべて私の方に顔を近づけてくる。
「莉愛ちゃん…?」
「いやぁ〜。夏帆っちは友達として岬っちの事好きって言ってたけど〜?岬っちは夏帆っちの事、友達として好きなの〜?」
「そ、それは…」
そうだよ、なんて言えなかった。何故か分からないけどそう言いたくは無かった。
ワークを書く手を止めて、私は莉愛ちゃんに向き合う。
「…私は、違うかな。」
あんなにいつも一緒にいるのに、全然飽きない。夏帆ちゃんといると心があったまる気がして心地いいんだ。
「ふ〜ん?そっかぁ。」
莉愛ちゃんは私の答えを聞くと楽しそうな笑みを浮かべて、教室から出て行った。
「…よし。ワーク終わらせちゃおう。」
気持ちを切り替えてワークに取り掛かる。
直ぐにホームルームを告げるチャイムが鳴り、さっきの思いは頭の隅に追いやられていった。
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