『俺達のグレートなキャンプ7 超激辛麻婆豆腐作り』

海山純平

第7話 超激辛麻婆豆腐作り

俺達のグレートなキャンプ7 超激辛麻婆豆腐作り

「よっしゃー!今日のキャンプもぐれぇぇぇとだぜ!」

石川がキャンプ場に足を踏み入れた瞬間、両手を高々と上げて叫んだ。その声はキャンプ場全体に響き渡り、周りのキャンパーたちが一斉に振り返った。

「石川、声でかいって。みんな見てるよ...」

富山は顔を真っ赤にして、帽子を目深にかぶり直した。同じキャンプ仲間とはいえ、石川のハイテンションぶりにはいつも困惑していた。

「いいじゃねえか!キャンプってのは自然を満喫しながら、思いっきり楽しむもんだろ!」

「石川さん、今日のグレートなキャンプは何するんですか?楽しみですね!」

千葉は石川の横に立ち、目をキラキラさせながら聞いた。キャンプ歴はまだ浅いものの、石川の「グレートなキャンプ」シリーズには毎回ワクワクさせられていた。

「お前の瞳、星みたいにキラキラしてるな!そうだ、今日のグレートなキャンプは...」

石川はリュックから何かを取り出し、まるで宝物のように両手で掲げた。

「超激辛麻婆豆腐作りだぁぁぁ!!」

それは様々な唐辛子と謎のスパイスの数々、そして「激辛の素」と書かれた赤い袋だった。

「え?麻婆豆腐?それがグレートなキャンプ...?」富山は首を傾げた。

「違う!『超激辛』麻婆豆腐だ!俺が集めた世界の激辛スパイスをぶち込んだ、舌がバーナーで焼かれるような超激辛麻婆豆腐を作るんだ!」

「おおー!それは面白そう!」千葉は無邪気に喜んだ。

「...あのさ、キャンプって自然を楽しむものじゃなかった?なんで激辛料理大会になってるわけ?」富山は呆れながらも、テントを設営し始めた。

「なんでって、それこそがグレートなキャンプの醍醐味だろ!普通のキャンプじゃつまらねえ!」

「石川さんの発想はいつもすごいですね!僕も挑戦したいです!」

千葉の言葉に石川は満面の笑みを浮かべた。

「よし!じゃあさっそくキャンプ場の設営終わったら、超激辛麻婆豆腐の準備だ!」


夕方になり、三人のテントが並んで設営された。中央には焚き火台とダッチオーブン、そしてなぜか巨大な中華鍋が置かれていた。

「石川、あのでかい鍋、車でどうやって運んできたの...?」

「ははは、秘密だぜ!さあ、いよいよ超激辛麻婆豆腐の調理開始だ!」

石川は腰に手ぬぐいを巻き、シェフの帽子をかぶった。どこからそんな物を出したのか、富山は呆れながらも興味津々で見守った。

「まずは豚ひき肉を炒めて、にんにく、しょうが、ネギをぶち込む!」

石川は手際よく食材を鍋に投入し、炒め始めた。辺りには豊かな香りが漂う。

「うわ、いい匂い!」千葉は目を輝かせながら石川の調理を眺めていた。

「次はこの『激辛の素』と、特製ブレンドスパイスだ!」

石川が赤い袋の中身と、様々な色のスパイスを一気に鍋に投入した瞬間、煙のような蒸気が上がった。

「うっ!」富山は思わず目を押さえた。「これ、大丈夫?」

「問題ない!次は四川豆板醤と、俺特製の『死神唐辛子オイル』だ!」

「死神...?」千葉は少し不安そうに呟いた。

「ふっふっふ、そう、これさえあれば、どんな辛さにも耐えられる!」石川は謎の自信を持って言い切った。

鍋からは次第に赤い蒸気が立ち昇り始め、辺りには強烈な辛さの香りが充満した。その香りは風に乗って、キャンプ場全体に広がっていった。


辺りが夕闇に包まれ始めた頃、石川の調理台の周りには人だかりができていた。

「なんですか、その匂い...」

ファミリーキャンプ中の父親が子供を連れて近づいてきた。その後ろには若いカップルや、ソロキャンパーらしき男性、さらに外国人グループまで、様々なキャンパーが集まっていた。

「へへへ、これが俺の超激辛麻婆豆腐だぜ!」石川は胸を張った。

「すごい色...」若いカップルの女性が目を丸くして鍋を覗き込んだ。

真っ赤に煮立つ麻婆豆腐からは湯気と共に辛そうな香りが立ち上り、見るからに危険な雰囲気を醸し出していた。しかし、その香ばしさと深みのある香りに、集まった人々の食欲は否応なく刺激されていた。

「あの...ちょっと味見させてもらえませんか?」ソロキャンパーの男性が恐る恐る尋ねた。

「もちろん!みんなでシェアするのがキャンプの醍醐味だろ!」

石川は大きな紙皿を取り出し、次々と真っ赤な麻婆豆腐を盛り付けていった。

「ちょっと、石川...」富山は心配そうに声をかけたが、すでに周りのキャンパーたちは興味津々で皿を受け取っていた。


「それじゃあ、いただきまーす!」

石川の掛け声で、集まった十数人のキャンパーたちが一斉に超激辛麻婆豆腐を口に運んだ。

一瞬の静寂。

「うまっ...あっ、辛いっ!!」

「ホッホッホッ!辛いけど、なんだこの旨さ!」

「水!水をくれ!でも、もう一口!」

キャンプ場に悲鳴と歓声が混じった奇妙な声が響き渡った。みんな顔を真っ赤にし、汗を滝のように流しながらも、不思議と箸を止められない様子だった。

「これは...なんというか、痛みと快感が同時に来る感じですね!」若いカップルの男性が涙目で言った。

「まさに辛旨!こんな麻婆豆腐初めて食べたよ!」ファミリーキャンプのお父さんも、子供に水を渡しながら興奮気味に言った。

「This is crazy but delicious!日本のスパイス文化、アメイジング!」外国人グループも、顔を真っ赤にしながら絶賛していた。

石川の周りには、水をがぶ飲みしながらも麻婆豆腐を食べ続けるキャンパーたちの輪ができていた。隣のテントサイトからも「あの匂い、何?」と人が集まり始め、瞬く間に石川の超激辛麻婆豆腐は、キャンプ場の一大イベントと化していた。

「へへへ、どうだ!これぞグレートなキャンプだろ!」石川は誇らしげに胸を張った。


辺りが完全に暗くなる頃には、キャンプ場のあちこちから「水をくれ!」「牛乳はないのか!」「でも、もう一口食べたい!」という奇妙な叫び声が響いていた。

「石川、あんた本当にすごいことしちゃったね...」富山は半ば呆れ、半ば感心した様子で周りを見回した。

「キャンプ場がまるでお祭り会場みたいになってる!」千葉は興奮して言った。

確かに、石川のテントサイトを中心に、様々なキャンパーたちが集まり、超激辛麻婆豆腐を囲んで騒いでいた。中には自分のテントから飲み物や漬物を持ち寄る人も現れ、即席の宴会のような雰囲気になっていた。

「あのー、さっきの麻婆豆腐の作り方、教えてくれませんか?」

「うちの子供が辛いの大好きで、これは絶対気に入ると思うんです!」

「SNSにアップしていい?」

石川は次々と声をかけられ、にこやかに応じていた。

「ねえ、石川」富山がそっと呼びかけた。「これって...キャンプ場史上最大の『飯テロ』じゃない?」

「飯テロ?」石川は首を傾げた。

「そうよ。この匂いとみんなの反応で、今夜このキャンプ場の人たちは全員、あなたの麻婆豆腐のとりこになっちゃったわ」

富山の言葉通り、キャンプ場のあちこちで人々が麻婆豆腐の話をし、写真を撮り、SNSにアップロードしていた。夜空に浮かぶ満点の星の下、キャンプ場全体が石川の超激辛麻婆豆腐で一つになっていた。


「よし、麻婆豆腐の次は、特製の激辛スイーツだー!」

石川が次なる恐怖の料理を取り出そうとした時、富山が慌てて止めた。

「もう十分でしょ!明日のことも考えなきゃ...」

「いやいや、まだまだ!今日の夜はこれで盛り上がるぜ!」

石川が取り出したのは、チリペッパーとシナモンをふんだんに使った「地獄のホットケーキ」だった。

「なんだそれ!?」富山は絶句した。

「石川さん、それ食べたら寝られなくなるんじゃ...」千葉も少し心配そうだ。

「大丈夫、大丈夫!みんなで食べれば怖くない!」

結局、その夜のキャンプ場は、喜びと苦しみが入り混じった奇妙な宴会場と化した。キャンパーたちは互いに「辛い!」と叫びながらも、不思議とみんな笑顔で、次々と石川の激辛料理に挑戦していった。中には「明日の朝も来てくれますか?激辛朝食が食べたいです!」と頼み込む猛者まで現れた。


夜が更けて、焚き火を囲んだ石川、千葉、富山の三人。周りのキャンパーたちもようやく自分のテントに戻り、キャンプ場は静けさを取り戻していた。

「石川、今日も本当に...グレートなキャンプだったね」富山は疲れた声で言った。でも、その顔には確かに満足げな笑みがあった。

「へへ、言っただろ?奇抜なことをやるからこそ、みんなと一緒になれるんだぜ」

「石川さん!次回のグレートなキャンプは何をするんですか?」千葉は相変わらず目をキラキラさせていた。

「それはな...」石川はニヤリと笑った。「極寒の雪山でかき氷作り対決だ!」

「えぇ!?」富山は悲鳴を上げた。

「おお!それも面白そう!」千葉は興奮気味に言った。

焚き火の炎が三人の笑顔を照らし、星空の下、また新たなグレートなキャンプの計画が始まっていた。


翌朝、石川たちがテントを片付けていると、キャンプ場のスタッフが近づいてきた。

「あの、昨日の激辛麻婆豆腐の方ですか?」

「そうだけど...何かあった?」富山が不安そうに尋ねた。

「いえ、すごく評判になってまして...」スタッフは照れくさそうに言った。「実は、このキャンプ場のイベントとして『激辛料理コンテスト』を企画しようかと思ってるんです。ぜひアドバイスいただけないでしょうか?」

三人は顔を見合わせた。

「おい、石川、お前のグレートなキャンプが、キャンプ場の公式イベントになるかもしれないぞ!」

「へへへ、それこそがグレートってもんだぜ!」石川は胸を張った。

こうして、グレートなキャンプ第7回「超激辛麻婆豆腐作り」は、キャンプ場全体を巻き込む大成功のうちに幕を閉じたのだった。

次回、果たして雪山でのかき氷作り対決は実現するのか?それはまた別の物語である。


完 -

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『俺達のグレートなキャンプ7 超激辛麻婆豆腐作り』 海山純平 @umiyama117

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