第3夜:バイクタンデム
「終っ電っまでにはおっわるかな〜♫」
「それでも十分に遅いんスけどね」
思ったよりは早めに届いた素材を反映させながら、珍しくY子は上機嫌だった。
先輩の知り合いに外注していたコーディングの確認中、ほぼ閉じタグがない罠はあったがつっ返すより自分で直したため比較的早く終わり、素材の反映も終電よりだいぶ早く終わりそうだったからだ。
「はーい今夜も楽しい怪談の時間がやってまいりました!」
「唐突に叫ばないでくださいよ…何も楽しくないっす」
Nはほぼ作業も終わっていたが、Y子に捕まり仕方なく話に付き合っていた。
「まあまあ、今日は妹との体験談をご紹介ー!」
「ああ妹さんってY子さんより見えるっていう?」
「そうそう、妹をバイクに乗せると結構な頻度でヤバいことになるんだよね」
さらっとバイク乗りな事を話しつつ、Photos■opを起動する。人物画像は背景がごちゃついており少しだけY子は顔を顰める。この頃はまだ、ボタン一発で髪の隙間を縫って背景を入れ替えることはできなかった。
「へえ…ってバイクの免許持ってたんすか?」
「うん、真っ黒でホイール金のサスが赤いかっこいいバイク持ってるよー!」
私カワ■キ乗りなんで!とニコニコしながらハンドルを握る仕草をするY子。
「で、これはそのバイクに妹乗せてバイト先から帰った時の話」
当時同じ飲食店でバイトをしていた2人は、よく一緒に帰宅していた。普段は電車で通っていたが、たまにバイクで通勤することがあった。
バイクなので大きめな声で話しながら、時に妹は器用に後ろでメールを打ちながら。
閉店まで働いて22時を過ぎた夜の道を帰宅するのだが、慣れたはずの帰路でなぜか迷い間違い気付けば見知らぬ墓地にたどりついたり、過去災害があり多くの人が亡くなった場所にいたり。
「シッ■ス・セ■■観たことある?幽霊が出る時気温が下がって寒くなる描写があるんだけど、あれマジなんだよ。息が白くなるほどじゃないけど急に寒くなるの」
何か起こり気温が下がると、それが元に戻るまで2人は無言になっていた。気温が戻ると一緒に重くなっていた空気も霧散するように軽くなる。
緊張感から開放されたのもあって、戻った後はやれどこから寒くなっただの、ここはどこだだの努めて軽口を叩いていた。何か見た訳では無いが、怖いものは怖い。
「何度目だったか分かんないけど、戻った後にふと疑問に思って妹に聞いてみたんだよね」
「何をっすか?」
「ヤバい時寒くなるけど、他になんか起こってたりする?って」
Y子自身は寒さと重苦しさ以外何もなかったが、自分より色々見える妹はもしかして、と軽い気持ちで聞いただけだった。
妹は少しの沈黙の後、いつものようにメールを打ちながらぽそりと言った。
「…あ〜、黙ってたけどさ。寒くなった時いっつも髪の毛引っ張られながら話してた」
「は!?え?!めっちゃ普通に話してたのに引っ張られてた!?」
「特に害ないし、言うことでもないかなって」
「OH…」
妹があまりにも普段と変わらず、Y子は小さく溜息すると帰路を急ぐのだった。
「姉が姉なら妹も妹っすねえ」
「いやホントビビったよね。めっちゃ普通に話すんだもん」
Photo■hopを終了し、好みから長年愛用しているEmEditorを起動しながらY子は苦笑いを浮かべる。
この頃はまだAto■もVS■odeも以下略。
「ガチな人ほど細かく教えてくれないってのが一番怖いとこかもネ」
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