第2夜:開いていた筈の窓
今日は花の金曜日。時計の針は21時を少し回ったところだったが、オフィスにはもう2人しか残っていない。
「うちの会社の定時、何時か知ってる?」
「19時って聞いてた気がするっス」
「あれれ〜時計は21時になってるよ。不思議だね!!」
アハハと笑いながらY子はキーボードを叩き続ける。今作っているのはリテイクに次ぐリテイクを重ねている仕様書だ。
「新規サイトよりリニューアルの方が時間かかる不思議だよねー」
「他人が作ったものを直したりする方が手間だったりするっスよね」
「はぁ〜〜ここで固めとかないと後で地獄しか見ないからね…まあひっくり返されるのも常なんですけどね!!ハハハハハ!!!!」
いよいよ叫び出したY子を見やると、Nは露骨にため息をついた。終電で帰宅できているものの、この状態が1週間続いているのだからいい加減キレ気味だ。
「……よし!メール本文は先に作ったから、あとはワイヤー案を途中まで作って明日の私に任せよう」
「僕もあと30分くらいで終わりそうっす。また少し話しますか?」
「おや?おやおやおや??怪談ハマった?」
目線はモニターから離さないまま、嬉しそうにY子は相槌を打つ。Nは珍しくにこりと笑うとすぐ真顔になった。
「キレ散らかされるとうるさいんっスよ」
「ひっど!まあいいけどーじゃあ今回も小学生の頃の話で」
明日提出しなければいけない宿題を忘れたことに気づいたのは、遊び倒して晩御飯も食べ終えた19時頃のことだった。
宿題を忘れるととても面倒なことになるため、しかたなく小学校に取りに行くことに。
「え、1人で行ったんすか?小学生が夜に??」
「大らかな時代だよねーまあ今考えると大分危ないけど。うちの近所割と治安良くなかったし」
校門をくぐり坂道を駆け上がる。ポツポツと街灯が光っているものの、辺りはかなり暗い。誰もいない校庭を眺め、ふと向かいの校舎を見上げると4階の女子トイレの窓が開いていた。真っ暗なそれを首を傾げつつ見やるがすぐに正面を向いた。
1階の生徒通用口は当然閉鎖されていたため、脇にある外階段を上がり灯りがついている2階の職員室に直行する。
教師が一人だけ残っており、事情を説明すると自分で取りに行くよう指示された。
「よりによって最上階の4階で、しかもいっちばん奥だったんだよね私の教室」
「うわあ典型的展開」
一番奥の教室に行くためには、女子トイレの前を通らなければならないことにジワリと怖くなるが、背に腹はかえられない。
階段も廊下も非常灯のみがついていて薄暗く、それでもどこかワクワクした気持ちもあって灯りはつけずに階段を駆け登った。4階につき廊下の突き当りを眺める。右手にある女子トイレからは目を逸らしつつ、廊下を駆け抜ける。
自分の机から忘れていった宿題を取り出し、やはりトイレは見ないようにしながら飛ぶように階段を降りて職員室まで戻り、教師に挨拶をすると早々に校舎の外に出た。
「特に何もなかったな〜とか思いながらふと、4階の女子トイレを見たらさあ…窓閉まってたんだよね」
「え」
「先生は一人しかいなかったし、勿論他にも誰もいなかったし誰が閉めたんだって話だよね」
「うっわ鳥肌たったっすわ」
シレッと軽い口調で語るY子の様子を、Nは両手で腕を擦りながらジッと見た。
作業が終わったのか、パソコンの電源を落とし帰り支度を始めつつ、Y子は再度口を開いた。
「当時創立20年も経ってない新しめの小学校だったのにさ〜なんか色々変だったんだよね。必ず毎年誰かの保護者が亡くなるし。これって普通?」
「…まあ知らないだけでそういうことは起こってるかもしれないけど毎年必ず??」
唐突に告げられた内容に、流石に同意できずにNは首をひねる。だがそれ以上Y子は話す気がないらしく、Nも諦めて帰り支度を始める。
全て片付けてからオフィスの電気を落とす間際、Y子は隣に立つNに小さく耳打ちした。
「当時は各学年2クラスしかない規模だったけど、人が増えて増設したってのは聞いた。その増設した場所出るって噂があった非常階段なんだよね〜今どうなっているのやら」
更に不可解な話が追加されてしまったが、Y子も分からない以上Nに調べる術はなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます