第58話 桃の花

「初花、大事にするよ」

「私もこれからも大事に思っています」

翔悟と出会った時は気が付かなかった。それでも妖怪である初花はちゃんと感じていた。勝五郎は初花への後悔の中でも、ちゃんと繋がる命を支えてくれた。

「ちゃんと優しい人だと、知っていましたから」

時を超えて出会えた子孫は、やっぱり優しくて愛情深い人だった。

どれだけ経ったかわからない年月の果て。

香月は、翔悟と初花が出会った小屋の縁側に座っている。香月にもたれるように瞳を閉じる初花を眺めた。

まるで幻のように薄れゆく初花の手を、離れないように握った。

この光景は前世を思わせるが、今、香月に不安はない。

「たとえ千里はなれても、いつかまた逢える」

消えゆく初花の口が幸せそうに上がった。

「いや、逢いに行くよ」

春一番が吹く。桃のように甘い初花の香りが鼻腔をくすぐり、桃の花びらと共に空へ舞った。

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