第54話 初花 ー献身ー
妖怪でありながら、人間として過ごす初花は、また勝五郎に出会えた時も人間として会いたい。その願いから、古都から離れて暮らしていた。
妖怪となっても心の大部分は勝五朗を想っていた初花は、その想いの強さから、じわじわと妖怪に侵食されていく。妖怪の本能は、背後から話しかけてくるようになった。
「勝五朗様に会いに行きましょう」
その度に、飲み込まれそうになる自我を保つために勝五郎との生活を思い出した。しかし思い出せば思い出すほど、欲望は強まる。欲望が強まれば、妖怪化が進む。
自我を守るように鉢を被った。意味があったのかはわからない。
怯えれば怯えるほど、欲望にすがり、すがればすがるほど妖怪となる。半分以上妖怪となった頃、妖怪に意識が呑まれるようになった。
そして、意識が飲まれた時の記憶も、人間だった頃の記憶も妖の物となっていく。
結果、想いで繋がった欲望と自我は、大事な部分以外は妖怪に移った。
妖怪であることも受け入れ出したある日、妖怪は勝五郎の魂を感知した。
肉体に勝五郎の遺伝子を持つ翔悟と、半分だけ勝五郎の魂を持つ翠雨が同じ想いを抱き共鳴した時、引き寄せられるように妖怪に呑まれた初花が現れた。この時は体が男性であった翔悟を勝五郎と判断した妖怪は、翔悟を誘拐したのだ。その後、翔悟が勝五郎ではないと知った妖怪は、人間の翔悟の体を乗っ取れば現世で効率的に勝五郎を捜せると考えた。
一方、家の前についた時に自我が戻った初花は、翔悟が現世から来たのだとしか思わなかった。そして保護したのだ。
隠世での暮らしの長い初花が、隠世の食べ物を食べさせることがいけないと知らない訳もない。けれど妖怪は、翔悟を半成りにしたら、より操りやすくなると、隠世の食べ物を食べせた。
時折、食べ物を摂らせた妖怪の時の記憶がない初花には、預かり知らぬところだった。
そして上手く現世に来た妖怪は弾かれぬように現世と隠世の境界ギリギリで乗っ取る計画を立てたのだ。
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