第46話 新幹線
君彦と咲子が改札前で手を振った。軽自動車で大きな駅まで送ってくれたのだ。
君彦にアキツキと阿弥陀岳と聞くと、大きな地図を取り出して調べてくれた。長野県アキツキ村が、阿弥陀岳の麓に存在するとわかった。
駅から新幹線に乗って長野県まで向かう。
アキツキは小さく、情報も少なかった。一番近くのバスも、今日の十八時が最終の便である。
咲子は栄吉の屋敷で起きたことを知らない。詳しく聞こうともしなかった。
それは、知っていても知らなくても自分は変わらないという強い意志があるためだ。ならば、難しいことも隠したいことも言わせなくても良い。咲子は君彦と結婚する時にそう伝えた。
彼女は帰って来ない君彦達を待ちながら、心配な気持ちや不安な気持ちでいたことだろう。そんな中、豪華な食事を用意してくれていた。
二人が明鏡泉から帰って来た時は、もう夕方だった。
咲子が作った食事を食べて、翌日の始発でハルヒ町を出た。咲子は残った白飯でおにぎりを二つずつ作ってくれた。
君彦と咲子に別れを告げた新幹線の中で、おにぎりを食べた。鮭と塩昆布だ。素朴な味がした。
「阿弥陀岳は阿弥陀如来様を祀っています。阿弥陀如来様は桃源郷の管理人とも言われています。もしかしたら、阿弥陀岳には桃源郷の入り口があるかもしれない。違いますか」
新幹線内で翠雨は正面を見つめた。香月にも薄くではあるが気配を感じていた。
薄桃色の羽衣に赤い袴に白い帯の女性だ。裸足であることとその服装から人間ではないことは明らかだ。それ以前に、天津彦の過去を見せてくれた女性だとわかる。
翠雨は肘掛けに右肘をついて睨むように女性を見る。翠雨には女性が、香月よりもはっきりと見えているのだろう。
女性はニコニコと弁当箱に入ったおにぎりを見つめる。あまりこちらの声が届いているとは思えない。翠雨はため息を吐いて、女性に話しかけることを諦めた。
「香月先輩、彼女から情報を聞き出すことは難しそうです。ですが、今言ったことが私の見解です」
おにぎりを口にして、不貞腐れた表情でむぐむぐと咀嚼する。香月も女性がいるであろう場所を眺めながら、残ったおにぎりを口に含んだ。
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