第28話 輪廻

「栄吉さん、牢を開けてください」

先ほどの光が強かったため、再び訪れた暗闇ではほとんど何も見えなかった。君彦が懐中電灯をつける。

「あ、天津、彦様?」

「本当に、ここに?」

君彦と栄吉は動揺した言葉を漏らした。香月は天津彦と茅に駆け寄っている。そのような状況で、翠雨は液状の妖怪に近寄った。

「さみし、かったんだ。天津彦が、いつも、さみしいって言うから。私が、そばにいようって。遊んであげようって。私も、さみしかったんだ」

翠雨はしゃがみ込み手を伸ばす。

「あなたは、弱い妖ですね。それも、負の感情で生まれた妖なのでしょう。そんなあなたは今後、どうしたって報われないし満たされない」

「なんで? なんでそんなことを言うの? 私はさみしいまんま?」

震える声でそういう妖怪は、液状の体を震わせた。まるで幼い子供のようだと翠雨は感じた。ほんのりと光が漏れる丸い二つの瞳から、黒い塊がポロポロと溢れた。それでも生き物に感情を寄せてはならない。それは人間でも妖怪でも同じだと、翠雨はこれまでの人生でそう結論を出していた。

「あなたが選んでください。このまま生き続けるのならばきっと寂しいままでしょう。それは私にはどうすることもできません。けれどあなたが今の状況を変えたいと願うなら、私は協力することができます」

「どうするの?」

「あなたを輪廻の輪へ戻すのです。次に生まれ変わる時はきっと幸せになれます」

妖怪はそっと液状の体を細く伸ばした。

「痛くない?」

「大丈夫ですよ。少し暖かく感じると聞きました。まるで母の腹の中のようだ、と」

「私、生まれ変わる。そして生まれ変わったら、あなたと天津彦と友達になるんだ」

「待っていますね。さあ行ってください」

翠雨が予備で持っていた護符を妖怪の細い部分に握らせる。妖怪は、ほんのりと笑みを浮かべたような気がした。

「あったかい。幸せってこういうのを言うのかな。ありがとう。天津彦は、もう大丈夫だよね」

花弁が風に流されるように、儚く攫われていく。黒い光が闇に溶けるように消えた。

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