第17話 飯沼翔悟 ー再び話しかけるまでー

高橋はニヤニヤ笑う。

「みんなわかってるよぉ。翠雨ちゃん、受験受かると良いねぇ」

真っ赤な顔を見られまいと左腕に埋める。それでも、自覚した翔悟はただ気になる女の子から好きな女の子に変わったことが嬉しかった。形容し難い感情に名前がついたことが、嬉しかった。

「今度はみんなで飯沼君を入学式のスタッフにしないとねぇ」

高橋は人差し指を口元に当てて考える。

その優しく応援してくれる様子に翔悟は納得する。穏やかで明るい人気者は、それなりの理由があるのだ。

「どうしてみんなここまでしてくれるんだろう」

思わず翔悟が呟いた。優しく面倒見が良いと言うだけでは説明の付かない熱心さだ。直後に、スタッフではないはずのクラスメイトが制服で走って来た。

「飯沼! 翠雨ちゃんに会えた!?」

「ちょっと高橋さん! 翠雨ちゃんどうだった? 本物も美人!?」

「可愛いよぉ。本当に!」

友也はゼェゼェと荒い息遣いな上に、生まれたての子鹿のように震えるおぼつかない足取りでかろうじて走ってくる。

「しょう、ご! 翠雨、に会えた……?」

その場に崩れ落ちる友也に駆け寄る。

「会えたけど、どうしてみんな、そこまで?」

友也を抱き起こし、疑問をぶつける。友也は整わない息を吐き出しながら右手で親指を立てるハンドサインをした。

「お前の、人望、だ」

高橋が立った状態で翔悟をのぞき込む。

「私、実は中学校で同じクラスだったんだよ? 目立たない私に声をかけてくれて、クラスで浮いてた私を自然に仲間に入れてくれたのが飯沼君だよ。やっと飯沼君の役に立てるんだもん。みんなも飯沼君の役に立ちたかったんだよ」

そういう高橋にクラスメイトは声を上げる。

「俺は彼女と喧嘩した時に何がダメか教えてもらった!」

「私は勉強を教えてもらったよ。おかげで留年免れたぁ」

「それはマジでヤバいだろ」

クラスメイトは口々に今まで助けてもらったことや応援されたことを口にする。

「みんな、そのくらいのことで?」

友也は伸びをして立ち上がる。息は整った様子だ。

「それくらいのことでも、嬉しかったこととか感謝していること、お前もあるだろ」

今度はクラスメイトが次の作戦会議の話をする。

「これからカラオケで翠雨ちゃんが入学した時の作戦会議だぁ〜!」

友也と高橋が中心となり、クラスメイトは盛り上がりを見せる。

翔悟としてはただ盛り上がれるネタを求めているだけの気もした。けれど自分のために全力で協力をしてくれるクラスメイトに微笑んだ。

「みんな、ありがとう」

ほどなく、翠雨は主席で入学を果たした。

それを知った翔悟のクラスメイトは雄叫びを上げた。

「お前らホント仲良いよな〜。学生時代のそういう思い出、大切にしろよ〜」

担任は苦笑いで下校時刻だけ釘を刺して、そっと教室を出た。

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